学習環境とは?:環境が学習に与える影響
「勉強の効率を高めたい!」
「集中して勉強したい!」
こう思った時に、皆さんならどうしますか?
ある人は、机の上が散らかっていると勉強に身が入らないから勉強する前には必ず机を整理するかもしれません。
他にも、「家だと集中出来ない」と行きつけのカフェに行って勉強する人もいるでしょう。
このように、学びを充実させるために「学習環境」を整えたり変えたりするのは日常的にしていると思います。
ですが、環境を整える以外にも、「勉強するシステム」や「一緒に学ぶ人との関係性」も学習環境と捉えることができます。
今回のブログでは、「システム」や「学ぶ人との関係性」に注目した学習環境についてまとめていきます。特に、学校の教室等のようなグループで勉強する場面を想定した学習環境についてご紹介します。
もくじ
1: 学習の意味と影響:バンデューラ博士の学習理論
2: 教育心理学から見た学習環境の影響
3: 周りからの影響を学びに活かす方法
4: 学習環境をデザインする
1: 学習の意味と影響:バンデューラ博士の学習理論
学習環境について考えていく前に、環境がどのように人の学習に影響を与えるかについて考えていきましょう。
この周囲からの影響と学習の関係は、社会的認知理論と呼ばれる学習理論で説明されています。
自己効力感の研究をしていた、スタンフォード大学のアルバート・バンデューラ博士は、「人間の学習は、環境、自分の認知、自分の行動、の3つが影響し合う過程で行われている」と説明しています(図1)。ここで言う環境は、生徒・教師・保護者などの周囲の人が意味していて、アドバイスや関わり方など周囲の人が学習者に与える影響を「環境からの影響」としています。
例えば、クラスメイトからのアドバイス(環境の影響)をもらった後に、勉強の仕方を変えてみたり(自分の行動)、アドバイスのおかげで今までとは違った角度から問題を捉えることができる(自分の認知)など、アドバイスを通して行動の変化(学習)が起こります。
この3つの関係は等しく関わり合っている訳ではありませんが、この関係を見ると環境が自分の認知や行動に影響を与えている様子が想像できると思います。
バンデューラ博士が提唱した「モデリング理論」も有名です。下記のブログで詳しく読めます。
2:教育心理学から見た学習環境の影響
勉強していて落ち着かないから机を整頓したり、家だと集中出来ないからカフェで勉強したり、物理的な環境を変えて勉強の効率を上げる工夫は多くの人がやっているでしょう。
これらの例は個人で勉強をしている状況ですが、物理的な環境を変えることで自分の考え方や気分に影響を与えているのが分かります。
では、学校の教室などの集団で学ぶ空間ではどうでしょうか?
個人で勉強している時と違い、集団の中で勉強する時には教師やクラスメイトなどの自分と関わる人の影響も出てきます。
具体的には、先生やクラスメイトたちとの関係性、先生の教え方、クラスメイトとの関わり合いなどが考えられます。
このような周囲からの影響についても、教育心理学では学習環境からの影響として研究されています。
3: 周りからの影響を学びに活かす方法
集団での勉強を充実させるために注目されているのが、自発的に勉強するためのモチベーションや仕組み作りです。
教育心理学では、自ら勉強に打ち込む意欲を高めるための理論的枠組みや取り組みがいくつかあります。しかし、それぞれに共通しているのは、「いかに内発的なやる気を高めるか」や「いかに学習者が自分で選んで自己決定する機会を作るか」と言えます。
今回は、教育心理学でよく使われている理論的枠組みや理論をいくつかご紹介します。説明自体は簡単になってしまいますが、詳細な説明は次回以降のブログでしていきたいと思います。
①動機づけ雰囲気
これはモチベーションに関する理論で、周りの関わり方が自分のモチベーションに与える影響について説明しています。
勉強を例に挙げると、自分と一緒に勉強している教師やクラスメイトの関わり方によって、自分が結果(テストの点数や成績など)を気にしているのか、取り組み(勉強そのものや努力など)を気にしているのかを判断するものです。
周りが成績ばかり気にしていて自分に対しても点数や成績に関する指摘やアドバイスを受けていると、結果ばかり気になって勉強のモチベーションが外発的になってしまいます。
一方で、周りからの指摘やアドバイスが勉強に取り組む姿勢や成長のプロセスなどが多いと、自分自身も成長に目を向けるようになり、勉強のモチベーションが内発的になっていきます。
成長に目を向ける姿勢についてもっと知りたい方はこちらのグロースマインドセットの記事をご覧ください。
②基本的心理欲求支援
これは、基本的心理欲求と呼ばれている3つの欲求を満たすことで、内発的な動機が高められる事を説明している理論です。
1つ目の欲求は、「自分は勉強が出来るんだ!」とか「私はこの科目が得意!」といった自分に対する「有能性」です。
2つ目の欲求は、「自分の意思で勉強している!」とか「自分で選んでこの勉強をしている!」などの自分の意思で選択する「自律性」です。
3つ目の欲求は、「この仲間たちと一緒に勉強したい!」とか「このクラスには自分の役割がある!」などの、仲間や組織と繋がる「関係性」です。
教師やクラスメイトがこれら3つの欲求を満たしてくれると、内発的に勉強に取り組みやすくなります。
具体的にどのようなことが家庭でもできるか気になる方はこちらをご覧ください。
③自己調整学習
これはどちらかと言うと、自分で勉強する際の仕組みや取り組みについて説明している理論です。
具体的には、目標を立てて、目標達成に必要な取り組みを実行して、取り組みに対して振り返りをして、次の勉強時の目標を立てる、のサイクルで勉強することで、自発的な学習態度を身につけられると説明しています(図2)。
勉強時にこのステップに沿って勉強を続けていくことで、日々の上達や学んだことを実感しやすくなり、成長を実感できるからさらに勉強に打ち込める、といったポジティブな循環が起こるようになります。
目標設定のコツについてより詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
4: 学習環境をデザインする
そして、解決したい勉強の課題に適してそうな理論を勉強に組み込むことで、より充実した勉強が出来るようになります。
これはインストラクショナル・デザイン(instructional design)と呼ばれる考えで『Instructional Design』著者のスミスとレイガンは、学習・指導の原理や理論を授業で使う教材、アクティビティ、情報のリソース、評価に落とし込むためのプロセスと説明しています。
具体的には、学習を充実させるには1)もっと学習を充実させるために何が必要なのかを考え、2)そのために必要な学習・指導理論を見つけて、3)自分の学習場面に当てはめて学習を充実させる、といったステップです。
この考え方はデザイン思考にも共通する部分があり、インストラクショナル・デザインは指導や学習の課題をデザインによって解決していきます。
次回以降は、今回ご紹介した指導・学習理論がどのように学習に組み込まれ、どのように充実した学びに繋がるかについて説明していきます。
参考文献
Bandura, A. (2005). The evolution of social cognitive theory. In K. G. Smith & M. A. Hitt (Eds.), Great minds in management (pp. 9–35). Oxford, UK: Oxford University Press.
Ntoumanis, N., & Biddle, S. J. (1999). A review of motivational climate in physical activity. Journal of sports sciences, 17(8), 643-665.
Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). The darker and brighter sides of human existence: Basic psychological needs as a unifying concept. Psychological inquiry, 11(4), 319-338.
Smith, P. L., & Ragan, T. J. (2004). Instructional design. John Wiley & Sons.
Zimmerman, B. J. (2013). From cognitive modeling to self-regulation: A social cognitive career path. Educational psychologist, 48(3), 135-147.
早川 琢也
2007年東海大学理学部情報数理学科卒、2009年東海大学体育学研究科体育学専攻修了。東海大学大学院では実力発揮と競技力向上の為の応用スポーツ心理学を学ぶ。 2014年8月よりテネシー大学運動学専攻スポーツ心理学・運動学習プログラムに在籍。スポーツ心理学に加え、運動学習、質的研究法、カウンセリング心理学、怪我に対するスポーツ心理学など幅広い分野について学ぶ傍ら、同プログラムに所属する教員・学生達のメンタルトレーニングを選手・指導者へ指導する様子を見学し議論に参加する。 2016年8月より同大学教育心理学・カウンセリング学科の学習環境・教育学習プログラムにて博士課程を開始。スポーツスキルを効率良く上達させる練習方法、選手の自主性を育む練習・指導環境のデザインについて研究。2020年11月に博士号(Ph.D.)を取得。現在は、慶應義塾大学兼任研究員として選手の主体性を育める練習環境をテーマに研究を進める一方、NPO法人Compassionのメンバーとしてスポーツ心理学、運動学習、教育心理学などの学術的な理論や研究内容を応用して、子どもが未来に対して希望を持てる心のサポート活動も積極的に行なっている。