ギフテッド教育とは? 子どもの才能に気づき伸ばす方法

みなさんは「ギフテッド・チャイルド」という言葉を耳にしたことはありますか?

「3歳のとき、親がフランス語学習に使用していた会話CDを60分丸々暗記した。」

「小学校の時に連立方程式を解いていた。」

「譜面は読めないがバイオリンを弾けた。」

これらは「ギフテッド・チャイルド(Gifted child)」と呼ばれる生まれつき特別な才能やずば抜けた能力を持つ人たちの体験談*1です。

今回のブログは、このギフテッドの子どもたちに向けた教育、「ギフテッド教育」についてご紹介します。

もくじ
1. ギフテッド教育とは?
2. ギフテッドとは?ギフテッドの特徴
3. ギフテッドの診断
4. 「ギフテッド≠優等生」という思い込み、ときに問題を抱えやすい子どもたち
5. ギフテッド教育の特徴
6. 海外のギフテッド教育
7. 日本でも始まるギフテッド教育
8. まとめ:私たちができること

1.ギフテッド教育とは?

日本語でギフトは「贈り物」ですが、英語の「gift」には「天から贈られたかのような特別な才能・能力」という意味もあり、「Gifted child」というと並外れた能力、才能を持つ子どもという意味になります。

上位2%となるIQ130以上(目安)のギフテッドの子どもたちは、日本では約250万人いるといわれ*1、顕著に高い能力を持つ彼らは、適切なサポートを受けることでその才能をさらに開花させることができます。

このようにギフテッド・チャイルドに向けた教育はギフテッド教育と呼ばれ、アメリカでは、障害児教育と並ぶ特別支援の教育施策となっています。

2. ギフテッドとは?ギフテッドの特徴

スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長の星友啓氏は、アメリカの連邦法における「ギフテッド・チャイルド」に関する説明を次のように紹介しています。

 “学問、芸術、リーダーシップなどを含む特定の分野で、高い達成能力が確認され、そうした能力を十分に発達させていくためには、平均的な学校で提供されていないサポートを必要とする児童(初等中等教育法、Elementary and Secondary Act)” *2

一言にギフテッドといっても、人によって持っている能力や特徴の差が激しく、一括りにはできません。

ハーバード大学教育学大学院のハワード・ガードナー教授によると、ギフテッドの特別な能力は、言語、論理、数学のみならず、音楽、身体運動、対人性など幅広い分野に渡るとされています。(多重知能理論/Multiple Inteligence理論)
マルチプルインテリジェンスなどの能力や特性を活かす理論や事例については「多様性」のブログで詳しく紹介しています。

ギフテッド教育とは? 子どもの才能に気づき伸ばす方法
ギフテッド教育とは? 子どもの才能に気づき伸ばす方法
みなさんは「ギフテッド・チャイルド」という言葉を耳にしたことはありますか? 「3歳のとき、親がフランス語学習に使用していた会話CDを60分丸々暗記した。」 「小.....

一方で、多くのギフテッドに共通する特徴もあり、代表的なものとしては次のようなものが挙げられます。

学習能力が高い

ギフテッドの子どもたちは、飲み込みの早さが段違いなケースがよく見られます。記憶力が高く、数回見ただけでも記憶できることに加えて、集中力もあるため短時間で学習します。同年代との学習進度に差が出ます。

思考能力が高い

論理的に物事を考えることができ、判断力にも優れているため大人顔負けの考え方を持っている子どももいます。

また、語彙も豊富で、理路整然と年齢からは考えられないほどハイレベルな内容の話をすることもあります。

好奇心旺盛

ある種の分野について好奇心が旺盛で、1を教えると10を学んでくるような性質を持っています。

完璧主義

ギフテッドは完璧主義な傾向が強く、これはポジティブな方向とネガティブな方向の両面にはたらきます。学習だけではなく日常生活においても、物事を完璧にこなしたいと考える性質が見られます。

好奇心の高め方についてもっと詳細を知りたい方は下記のブログをご確認ください。

ギフテッド教育とは? 子どもの才能に気づき伸ばす方法
ギフテッド教育とは? 子どもの才能に気づき伸ばす方法
みなさんは「ギフテッド・チャイルド」という言葉を耳にしたことはありますか? 「3歳のとき、親がフランス語学習に使用していた会話CDを60分丸々暗記した。」 「小.....

その他、全米ギフテッド教育協会(National Association for Gifted Children・NAGC)のホームページで紹介されている、ギフテッドの特徴を一部ご紹介します。

・特にパズル、数あそびなどを好む
・非常にものごとに敏感である
・物事に深く、強烈な感情を覚えたり、激しく反応したりする
・早い時期から理想論や公正の概念を会得している
・早い時期から社会の不平等や、政治問題に関心がある
・自分の考えに耽りやすい。空想家
・直接聞くのではなく、探りをいれるような質問ができる
・試しにやってみたり、違うやり方でやったりすることに興味がある
・特徴的なユーモアがある
・ゲームや複雑な図式で、人や物を系統立てたがる
・鮮明な空想ができる(幼稚園の時期に空想の友人を思い浮かべるなど)

(DIAMOND ONLINE “スタンフォード発日本人の「ギフテッド教育」の常識が大間違いな理由”*2より一部抜粋)

3. ギフテッドの診断

どこからがギフテッドかについては様々な考え方がありますが、アメリカではギフテッド教育を提供する対象を決めるため、州や学区ごとに判定基準を設けています。

判定は IQ(知能指数)検査、学力テスト、担任や親への質問紙、教室での観察、インタビューなど様々な角度から総合的に行います。

ギフテッドと判定された子どもたちは、後で詳しく述べますが、通常とは異なる教育サポートを受けることができます。

学校が定期的に判定を行うことで、サポートを受けるべき子どもたちを見逃さないよう配慮されています。

全米ギフテッド教育協会によると、米国の中では学齢の子どもたちの約6%、約300万人がギフテッドとされているそうです。
IQや学力だけで測れない非認知能力について、下記のブログで研究などを詳しく紹介しています。ぜひご確認ください。

ギフテッド教育とは? 子どもの才能に気づき伸ばす方法
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みなさんは「ギフテッド・チャイルド」という言葉を耳にしたことはありますか? 「3歳のとき、親がフランス語学習に使用していた会話CDを60分丸々暗記した。」 「小.....

4. 「ギフテッド≠優等生」という思い込み、ときに悩みを抱えやすい子どもたち

「ギフテッド=才能のある子=なんでもできる子」というイメージがあるかもしれません。

しかしほとんどの場合、才能は特定の分野に特化されがちで、その表れ方は様々です。

高知能がゆえに、学習のスタイルや、心理的、社会的、感情的な面で一般の生徒とは異なる面があり、通常のクラスでは学業の成績が伸びにくかったり、登校拒否となるケースも珍しくありません。

アメリカのある研究では、18-25%のギフテッドたちが高校をドロップアウトしていることが報告されており、その主な理由としては、「落ちこぼれる」「学校が好きじゃない」「仕事を見つける」「妊娠した」などが挙げられ、殆どが学校に戻るつもりはないと回答しているそうです。*3

ギフテッドの子どもたちが抱えがちな課題として例えば次のような特徴が挙げられます。

・授業や課題に集中できなかったり、話題と外れてしまうことがある。
・興味のあること以外のことをやりたがらない。
・飽きっぽい。
・クラスを乱す行動をとる。
・繰り返しや暗誦することに、非常な抵抗感を示す。
・課題をさっさとこなすが、やり方が雑である。
・やり過ぎて、自分を消耗させてしまう。
・批判をうまく受け止められない。
・グループ協同作業がうまくできない。
・権威のある人に批判的な態度をとる。
・自己、他者に対して批判的である。また完璧主義である。
・議論の中で、自分の主張を通そうとする。
・クラスの道化師になったり、ジョークに対して大げさに反応する。
・クラスの中で何でも知っている物知り屋として見られる。
・周りに対してボス的な態度をとる。

(“アメリカのギフテッド教育事情” ポーター倫子 ワシントン州立大学人間発達学科専任教員 2011年 https://www.blog.crn.or.jp/report/02/130.html *4より一部抜粋)

このような行動の背景には、学習内容が本人の能力や興味とかけはなれているために集中できなかったり、周囲の誤解や批判を得るような行動をとってしまうことなどが考えられます。

また、ギフテッドの思考パターンや、感性の豊かさ、完璧主義傾向などにより、周囲と適応しながら学習を進めていくことに困難を感じるケースもあります。

NHKのクローズアップ現代というテレビ番組が、ギフテッドの素顔に迫るためにアンケートを実施したところ、ギフテッドの9割近くが、「何らかの生きづらさを感じていた」と番組のホームページで紹介されています。

アンケートには、“かけっこが得意な人は「速く走っちゃだめ」と言われないのに、勉強はなぜ横並びにしないといけないのか。”といったコメントも寄せられていたそうです。

ギフテッド教育は、単にその高い能力に応じた教育内容を提供するだけでなく、ギフテッドゆえに経験する様々な学習や生活における困難をできるだけ軽減することも重要な目的となります。

教育と創造性に関しては、下記のブログもぜひご参照ください。

ギフテッド教育とは? 子どもの才能に気づき伸ばす方法
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みなさんは「ギフテッド・チャイルド」という言葉を耳にしたことはありますか? 「3歳のとき、親がフランス語学習に使用していた会話CDを60分丸々暗記した。」 「小.....

5. ギフテッド教育の特徴

ここまでの話から、ギフテッド教育を「英才児教育」や「エリート教育」と混同された方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これらとギフテッド教育は、根本的な視点が異なります。

ギフテッド教育の主たる目的は、ギフテッドの子どもたちのサポートです。

このサポートには2つの側面があります。

1つは、ギフテッドの子どもたちの才能を適切に伸ばすこと。

もう1つは、才能ゆえに直面する問題を適切に認識しサポートすることです。

ギフテッドは、なんでも上手にできるオールラウンダーではなく、むしろ一つのことに執着・熱中するあまり、通常期待される社交性の欠如や、得意分野以外のスキルを身につけるのが遅れてしまうことがあります。

こうした「ギフテッド」ゆえの問題をサポートすることも、ギフテッド教育の重要な役割に含まれます。

6. 海外のギフテッド教育

では具体的にギフテッド教育にはどのような方法があるのでしょうか。

ギフテッド教育が盛んなアメリカでは次のいずれか、もしくは複数の組み合わせによりギフテッド教育が提供されているようです。

エンリッチメント方式

ギフテッドの子どもも一般の生徒たちと一緒に過ごしますが、通常学級の中で一般の生徒よりレベルの高い内容の宿題を渡されたり、各種コンテストへの参加を促され、才能を存分に発揮し挑戦できるような機会を創出します。

プルアウト方式・取り出し方式

たとえば週に1度などの一定時間、ギフテッドの子ども同士が集まって一緒に学ぶ機会を作ります。生徒たちの興味に応じて、ハイレベルな学習が提供されます。また社会情緒的な面でのサポートも行われます。

アクセルレイト方式

日本でいう飛び級です。年齢ではなく、本人の能力により1学年上に所属したり1段階上の学校に進んだりします。

サマースクール方式

夏休みの期間を活用して、ギフテッドの子どもを対象にした集中講義やキャンプを行います。

7. 日本でも始まるギフテッド教育

渋谷区の例

これまで日本であまり馴染みのなかったギフテッド教育ですが、2017年に渋谷区が公教育で初めて取り組みをスタートさせ話題となりました。

渋谷区のギフテッド教育は、年に数回の特別講義を行う形式で、各界を代表する様々な人物による特別講義など、ハイレベルで興味深い内容となっています。

渋谷区の例を皮切りに日本でもギフテッド教育が今後徐々に浸透していくかもしれません。

日本でギフテッド向けに提供されているサポート

学校以外でもギフテッド向けのサポートは提供されています。

ギフテッド応援隊
2017年に設立されたギフテッドの子どもを持つ親向けのコミュニティーです。SNSによる交流や情報発信、勉強会などのイベント企画を軸に全国で活動しています。

JAPAN MENSA
「人口の上位2%のIQを持つ人」が参加する国際グループMENSAの日本支部です。ギフテッドである会員同士の交流を主な目的としています。MENSA主催の入会テストを受けることで会員となることができます。

孫正義育英財団
ソフトバンクの孫正義会長が設立された財団です。ここではギフテッドを「異能」と呼んでいますが、すば抜けた才能を持つ若者を支援する財団として、進学や留学の費用などを支援しています。

異才発掘プロジェクト ROCKET
東京大学先端科学技術研究センターが運営する小学校3年生から中学校3年生を対象にしたプロジェクトです。北海道の原野で見つけた鹿の角で自分専用のナイフとフォークを作る体験学習など、ユニークな企画を多数行っています。基本は「スカラー生」と呼ばれる、選考を通過した生徒のみを対象としていますが、一部誰でも参加できるオープンプログラムも実施されているので、興味ある方はホームページをのぞいてみてはいかがでしょうか。

8. まとめ:私たちができること

米ジョンズ・ホプキンス大学のジョナサン・プラッカー教授は、ギフテッドに関して2つの誤解があると伝えます。

1つ目の誤解は、「天才は放っておいても天才になる」ということ。様々な研究結果からわかったのは、適切なサポートを受けなければ、才能は開花しないということ。つまり「天才は、放っておいても天才にはならない」そうです。

2つ目の誤解は、「成績が悪いから、才能がない」と思い込むこと。天才でも、適切なサポートなしには、才能が伸ばされないまま成長します。才能が伸びないのは、単にこれまでの学習サポートが適切ではなかっただけという可能性もあります。

アメリカでは、約6%がギフテッドの子どもといわれています。

これは40人の教室の中に平均2~3人のギフテッドがいることを意味します。

そのような子どもたちにより適切なサポートを提供するには、まず第一に大人が彼らの能力に気づく必要があります。

また、ギフテッドの子どもたちに限らず、程度の差こそあれ誰にでも「他の人よりも得意なこと」や「没頭できる好きなこと」があると思います。

今すでに大人になっている私たちも、改めて自分自身の個性や才能に目を向けることが重要かもしれません。

◆参考リソース: