多様性(Diversity: ダイバーシティ)とは?:定義や企業・学校・チームでの活用例

多様性と聞くと人種や言語を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?一方「多様性」は、人種・言語以外にも、考え方・観点・経験、仕事のレベル・スキル、ジェンダー・信仰・年齢・身体的能力といったものも含まれるとされる定義が広がっています。そして「多様性」を語る時には、「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I、Diversity and Inclusion)」という形で差異や違いを互いに理解し尊重することが大事なことだと価値づけられています。

日本で2020年から漸次施行されている新学習指導要領では、一人ひとりの「生きる力」を育むことに重点が置かれています。またその中で特に強調されるのが、多様性への理解や主体性(Sense of Agency)、問題解決能力の育成です。多様性に関しては、特に個々の児童を踏まえた「主体的・対話的で深い学び」が推進されています。

このブログでは、「多様性」を語るときに知っておきたいこと、多様性を活用する学校や企業、多様性の理解に役立つツールや組織・研究成果などについて深掘っていきます。

もくじ
1: 多様性のある環境が与える影響とは?:チームに関する研究紹介
  1-1: チームに関する研究①:マッキンゼー論文
  1-2: チームに関する研究②:Cloverpop社調査
2: 多様性を認めて活かす学校や企業:ダイバーシティ教育や組織人事への活用例
  2-1: ユナイテッド・ワールド・カレッジ(UWC)
  2-2: 立命館アジア太平洋大学(APU)
  2-3: 株式会社ラッシュジャパン(LUSH)
3: 多様性の時代~理論や診断によって多様さを受け入れ、活動に活かす
  3-1: マルチプルインテリジェンス(MI)
  3-2: MBTI(Myers–Briggs Type Indicator)
おわりに:子育て・教育・人生に多様性の視点を活かす

1: 多様性のある環境が与える影響とは?:チームに関する研究紹介

1-1:チームに関する研究①:マッキンゼー論文

2018年にマッキンゼー・アンド・カンパニーが発表した「Delivering through diversity」という調査論文では、12カ国1000以上の企業に、女性や少数民族の雇用等多様性を重視した人事施策や企業利益・価値創造について調査を行った結果が、下記のように示されました。

収益性の向上における可能性
 ・2014年調査で経営幹部の性別多様性が高い上位25%の企業は、下位25%の企業よりも15%高い収益性
 があった。また2017年に行った同調査では上位25%の企業は下位25%の企業よりも21%高い収益性
 があった。
 ・2014年調査で経営幹部の民族的および文化的多様性が高い上位25%の企業は、下位25%の企業よりも
 35%高い収益性があった。また2017年に行った同調査では上位25%の企業は下位25%の企業よりも
 33%高い収益性があった。

多様性を志向する企業が行っていること
 ・ ビジネスの精神と優先順位を反映したインクルージョンとダイバーシティ(I&D)戦略を開発して
 いる

1-2:チームに関する研究②:Cloverpop社調査

Adobe Systemsのシニア・ディレクターから起業したErik Larson氏率いるCloverpop社はチームに関する2年間・約600のビジネス上の意思決定分析の調査を行い「より多様な視点で意思決定チームの構成を設計することで、意思決定のコンテキストを変えることが効果的」として下記の結果を示しました。

チームは66%の確率で個人の意思決定より良い意思決定を行う
チームの多様性が増すにつれて意思決定の精度が向上する
  ・ 全員が男性のチームは58%の確率で個人に比べより良い意思決定を行う
  ・ 性別の異なるチームは73%の確率で個人に比べより良い意思決定を行う
   ・ 幅広い年齢層・地理的多様性を含むチームは、87%の確率で個人に比べより良い意思決定を行う

多様な構成によるチームの効果などを背景に、外資系企業などがより市場を席巻するようにもなりました。次にはこの効果を教育や活動に活用している学校や組織を紹介します。

2: 多様性を認めて活かす学校や企業:ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)、教育や組織人事、文化・社会づくりの活用例

2-1:ユナイテッド・ワールド・カレッジ(UWC)

UWC(本部:ロンドン)は、イギリス・カナダ・イタリア・アメリカ・香港・アルメニア等、世界各国にカレッジを開校し、世界各国から選抜された高校生を受け入れ、教育を通じて国際感覚豊かな人材を養成することを目的とする国際的な民間教育機関です。

UWCでは、生徒を中等教育期間終了前(日本の場合は高2夏以降、事前出願・選考は高1秋~冬)に受け入れます。生徒たちは2年間カレッジでともに学び、60~70カ国の生徒約200名が寮で共同生活を送るとともに、勉学やスポーツに勤しんでいます。

UWC でのカリキュラムは、日本を含む多くの国で大学入学資格として認められている国際バカロレア(International Baccalaureate: 通称 IB)に則っており、IB のプログラムは主要科目(言語、社会科学、自然科学、数学、選択科目)に加えて一般教養や卒業論文、社会奉仕活動など、学業だけに片寄らない、バランスのとれた学生を育成することを目的としています。

UWCに通うことになった藤原さんの記事も、下記リンクから確認できます。

多様性(Diversity: ダイバーシティ)とは?:定義や企業・学校・チームでの活用例
多様性(Diversity: ダイバーシティ)とは?:定義や企業・学校・チームでの活用例
もくじ 1: 多様性のある環境が与える影響とは?:チームに関する研究紹介   1-1: チームに関する研究①:マッキンゼー論文   1-2: チームに関する研究.....

2-2:立命館アジア太平洋大学(APU)

APUは真の「国際大学」を標榜し、学部内に5割の留学生と外国人教員を迎え、日本語と英語で教育をしています。留学生は英語で授業を受けつつ、4年間で日本語を学びます。日本人学生は最初のうちは日本語で授業を受けつつ、4年間で英語や他国語を身に付けます。学校で一緒に学び、寮では一緒に暮らしながら、お互いの文化や習慣を学び、国際人材として育成する環境づくりをしています。

APUは、開学時に

● 全学生に占める留学生比率50%
● 外国籍教員比率50%
● 留学生の出身国・地域を50以上

の「3つの50」を掲げ、学校創立以来、134カ国超の学生と教員がAPUに集まっています。

また出口治明学長が2018年に学内に「起業部」を設立した動機について

「APUは日本の他大学にないダイバーシティーという圧倒的な個性を持っています。さまざまな人が集まることで、ケミストリーが起こり、イノベーションがうまれることは、歴史上でも明らかです。APUは、このダイバーシティーをいかして、起業家や社会起業家を輩出することが、ひとつの使命だと考えました。」

とコメントしています。

2-3:株式会社ラッシュジャパン(LUSH)

英国発祥のスキンケア・化粧品メーカーLUSHはLGBT支援宣言を掲げ、難民支援のグローバルキャンペーンを行うなど、社内の多様性を認め、積極的に歓迎しています。

LUSHは創業者のMark Constantine氏が「キャンペーンカンパニー」を標榜し、自社の製品やビジネスを通じて世の中の課題を人々に訴えかけることで問題解決を目指しており、世界にあるさまざまな社会問題の根本解決を目的にした取り組みを行なっているそうです。先に述べたLGBT支援や難民支援の中には、会社として人事制度を改定し同性パートナー登録制度を導入したり、難民申請手続きの間LUSHの工場で難民の方2名を採用したりといった先駆的な取り組みが含まれています。

また働き方や信念となる考えとして「Freedom of Movement」(移動の自由)を掲げているそうです。これに基づき

● 個人の希望ではない人事異動はない
● キャリアがオープンになっており、自分で空いているチャンスを見つけ、自ら手を挙げるイニシアチブが大切にされている

といった人事制度があり、物理的な場所の移動だけでなく、「他者との違い」という壁、「自分自身の可能性」への壁も越えていくことが含まれ、多様な個人が自分らしく働ける環境を整えています。

3: 多様性の時代~理論や診断によって多様さを受け入れ、活動に活かす

初めの段落で述べたように、多様性は見かけ上だけでなく内面や経験など様々なものを含みます。ここでは、自分や他人の多様さを知るのに活用できる2つの理論や診断を紹介します。自己理解や他者理解のために活用してみてください。

3-1:マルチプル・インテリジェンス(MI)

マルチプル・インテリジェンス(MI: Multiple Intelligence)とは、1983年にハーバード大学教育大学院のハワード・ガードナー博士が発表した理論です。知能(Intelligence)は、IQテストに基づく知能観では測ることのできない複雑で複合的(Multiple)な力であり、常に変容・発達可能な力と定義されています。そして人間は「8つの知能」を持って生まれ、どの知能が強いか弱いかという程度と組み合わせが一人ひとりの「個性」となると説いています。

8つの知能とは具体的に下記を指します。

① 言語的知能 (Verbal – Linguistic)
② 論理・数学的知能 (Logical – Mathematical)
③ 空間的知能 (Visual – Spacial)
④ 音楽的知能 (Musical)
⑤ 身体運動的知能 (Bodily – Kinesthetic)
⑥ 対人的知能 (Interpersonal)
⑦ 内省的知能 (Intrapersonal)
⑧ 博物的知能 (Naturalistic)

ガードナー博士はIQテストで測れるのは8つのうち①・②しかなく、教育によって他の知能をも養成すること、自分の知能のプロファイルをもとに学びを深めることを提言しています。下記リンクからマルチプルインテリジェンスの簡易診断をすることができます。

Assessment: Find Your Strengths! – Multiple Intelligences For Adult Literacy Education
https://www.literacynet.org/mi/assessment/findyourstrengths.html (英語)

3-2:MBTI(Myers–Briggs Type Indicator)

外資系企業やNPOのチーム編成などに活用されているMBTIは、カール・ユングによって提案された概念理論に基づいて、キャサリン・クック・ブリッグスと彼女の娘イザベル・ブリッグス・マイヤーズが作り上げました。ユングが、4つの主要な心理学的機能である①感覚、②直観、③感情、④思考を用いて人は世界を経験しており、人の生涯のほぼすべてにおいてこれら4つの機能の内の1つの機能が支配的であると推測していたところから、この4つの機能についてそれぞれ2つの指向性とそのバランスで個人の傾向を16分類に分けて示すテスト(診断)です。

16 personalities – NERIS Analytics Limited
https://www.16personalities.com/ja (日本語)

ただMBTIは個人の分類や性格診断が目的ではなく、回答した個人が自分の心を理解し、 自分をより生かすための座標軸として用いることを最大の目的にしているそうです。診断結果を用いながら、MBTIの専門家(MBTI認定ユーザー)の支援を受け、MBTIに回答した本人が、自分についての洞察を深め、自分のもっともしっくりくるタイプを見つけ出す過程を重視しているといいます。

個々人の「多様な才能と情熱が創造性を生む」と話した英国の教育家 ケン・ロビンソン卿の記事もぜひ確認してみてください。

多様性(Diversity: ダイバーシティ)とは?:定義や企業・学校・チームでの活用例
多様性(Diversity: ダイバーシティ)とは?:定義や企業・学校・チームでの活用例
もくじ 1: 多様性のある環境が与える影響とは?:チームに関する研究紹介   1-1: チームに関する研究①:マッキンゼー論文   1-2: チームに関する研究.....

おわりに:子育て・教育・人生に多様性の視点を活かす

マルチプル・インテリジェンス理論のハワード・ガードナー博士は2015年の“TEDxBeaconStreet”で、自分の研究と教育のポイントを下記のように語りました。

● 知能が1つではないと気付かされたのは幼児教育研究において。あることに長けた子どもが他のことに長けているわけではない、では知能は1つではないと気づいた
● 30年にわたる研究の中で、8つの知能とGrit(やり抜く力)を伸ばすことの重要性と、Good Workと呼ぶ「善良で(Excellent) 専門性があり(Engaged) 倫理にかなった(Ethical) 仕事」をすることに、自分の知能とGritを使うことが大切であると気づいた
● 難しい判断にあたったときは、信頼できる友人等との対話を通じて、多様な視点を踏まえて問題や本質について考えること

自分自身の中にある多様性と、周りの人がいることで生まれる多様性に気づき、それを活かして過ごすことが、人生を多様でカラフルな経験にさせてくれると感じられる言葉です。今回紹介したような、多様性に関する情報を踏まえて周りを観てみると、また新たな多様性に気づくかもしれません。

https://tedxbeaconstreet.com/videos/beyond-wit-and-grit-rethinking-the-keys-to-success/
ハワード・ガードナー博士「知性とやり抜く力を超えて:成功への鍵とは何か再考する」

上記のGritに関してより詳しく知りたい方は、こちらのブログをご参照ください。

多様性(Diversity: ダイバーシティ)とは?:定義や企業・学校・チームでの活用例
多様性(Diversity: ダイバーシティ)とは?:定義や企業・学校・チームでの活用例
もくじ 1: 多様性のある環境が与える影響とは?:チームに関する研究紹介   1-1: チームに関する研究①:マッキンゼー論文   1-2: チームに関する研究.....

◆参考リソース:

・新学習指導要領「生きる力」 – 文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/index.htm

・Delivering through diversity – McKinsey & Company
https://www.mckinsey.com/business-functions/organization/our-insights/delivering-through-diversity

・New Research: Diversity + Inclusion = Better Decision Making At Work – Forbes.com
https://www.forbes.com/sites/eriklarson/2017/09/21/new-research-diversity-inclusion-better-decision-making-at-work/

・公益社団法人ユナイテッド・ワールド・カレッジ(UWC)日本協会
https://www.keidanren.or.jp/japanese/profile/UWC/index.html

・立命館アジア太平洋大学(APU)
http://www.apu.ac.jp/home/

・ラッシュについて – ラッシュジャパン
https://jn.lush.com/tag/about-lush

・日本MI研究会
http://www.japanmi.com/

・一般社団法人日本MBTI協会
http://www.mbti.or.jp/

・Beyond Wit and Grit: Rethinking the Keys to Success -TEDxBeaconStreet (日本語字幕)
https://tedxbeaconstreet.com/videos/beyond-wit-and-grit-rethinking-the-keys-to-success/