
日本の受験制度と国際比較
「良い」大学に入ることでよりよい仕事や人生を歩めると幼い頃から信じてきた人も多いのではないでしょうか。そのため、大学に入るための受験に自分の多くの時間と労力をかけた方も多いと思います。
その過程があったからこそ身についた知識やスキルもあれば、今振り返ってみて自分が経験した受験以外にも方法があったのではないかと疑問に思うこともあるのではないでしょうか。日本以外の国々を見ると受験や進学方法は重なる部分もあれば、全く別のシステムを活用している国も存在します。
今回のブログでは日本と海外の受験制度を比較し、将来を担う世代が必要な知識やスキルは何なのかも紹介していければと思います。
もくじ
1. 日本の受験制度
2. 海外の受験制度
2-1. アメリカ
2-2. イギリス
2-3. フランス
2-4. ドイツ
2-5. 中国
3. 求められる力:学び続ける力
4. まとめ
1. 日本の受験制度
日本の大学受験は2021年から改革が行われており、2020年まで行われていたセンター試験が幕を閉じ、2021年からは大学入学共通テスト(以下:共通テスト)へ変更されました。今まで「知識」「技能」が問われていたセンター試験に加えて共通テストでは「思考力」「判断力」「表現力」が新たな問われる力として注目されています。
大学によって入試の方法は異なりますが、大学入試を大きく分けると ①一般選抜(一般入試)、② 学校推薦型選抜(推薦入試)、③ 総合型選抜(AO入試)の3つにわかれます。
国公立大学の一般選抜は一次試験としての役割を持つ共通テストと大学別に実施される二次試験によって構成されている場合が一般的です。
国公立大学の入試は平成28年度のデータを見ると84.4%が一般選抜であり、残りの15.6%がAO入試や推薦入試です。2015年9月に国立大学協会が発表した「国立大学の将来ビジョンに関するアクションプラン」では、確かな学力と共に多様な資質を持った入学者を受け入れるために2021年までに推薦入試、AO入試等の入学定員を30%まで拡大することを目標と設定しており、今後もこれらの傾向は続く可能性もあります。
私立大学の入試も上記同様の3つの分類に大きくわかれますが、一般選抜では国公立大学のように統一した入試日程は設定されておらず、各大学が入試日程等を設定しています。一般選抜では、各大学が試験を実施する「一般方式」をとっている大学もあれば、一部では共通テストの成績を活用している「共通テスト利用方式」を活用している大学もあります。
国公立や私立大学の各大学が行う入試は文部科学省が公表している「大学入学者選抜要項」に沿って行われており、2021年度入試から新たな方針へと見直されています。
その中でも注目されるのは、「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性等)」を評価する入試への転換となっており、これらを実現するためにも「調査書」や面接の実施、活動報告書や学修計画書など「志願者本人の記載する資料等」の提出が促されている点です。
多様性をリアルに感じるために積極的な活動を行ってきた日本の高校生のインタビューが気になる方は下記のインタビュー記事を確認ください。

上記の方向性を実現するために大学側では「志願者本人が記載する書類」として志望理由書やエントリーシート等の提出を求める大学が増えていたり、出願時に「高校時の主体性・多様性・協働性に関する経験」の提出を求める大学も存在します。
大きな変化が行われ始めている日本の受験制度ですが、現時点では共通テストが大きな役割を果たしていることが見受けられます。
日本政府が目指すべき社会の姿として2016年に提唱した「Society 5.0」も大学受験や教育に影響を与えているといわれています。Society5.0については下記のブログで詳しく読めます。


2. 海外の受験制度
2-1. アメリカ
アメリカの大学は日本のような共通テストは存在しません。各大学がそれぞれの入試方法を設定していますが、多くの大学入試には下記の5点の提出が求められます。
①学校の成績(GPA)
高校が3年間の日本に対して、アメリカの高校は4年間となっています。その高校生活4年間での成績をGPAとして算出しており、4年間での成績の傾向や全体的なスコアがみられます。
基本的にGPAは4点満点(コースによっては4点を超えることも一部あり)となっており、トップ大学の受験生の多くは平均3.75以上を保持していることが多いです。
共通テストのような一発逆転がない代わりに4年間でどれだけ学習に対して意欲を持って接してきたのか等がみられます。
②エッセイ
志望理由書や自らの個性を主張することを目的としたエッセイの提出が求められます。エッセイのテーマについては、いくつかの大学が共通して設定しているテーマや大学が独自に設定している場合もあります。
③課外活動
学業以外に部活動や学校内での活動、学校外のボランティアやインターンシップ、起業等の学生生活での活動をまとめた資料が求められます。
④推薦状
多くの学校では最低2名の推薦状を求めており、学校での先生や課外活動で関わってきた人物等からの推薦状が求められます。
⑤SAT/ACT
英語での読解力や数学的な考え方が問われるテストとなっており、アメリカの大学受験に必要なテストとして多くの高校生が受験します。年に最大7回受験する機会があり、その中での最高得点を受験する大学へ提出できます。高校3年の後半から受ける生徒が多いです。
アメリカでも大学入試のあり方について議論が行われており、上記のSATを入試条件から外す動きなど議論されています。
一つのテストという形の入試に注力をしてもらうよりも高校生活4年間を通しての活動や実績をみていることが見受けられます。
日本から米国の大学へ挑戦した山本さんのインタビューでも彼女がどのように準備を進めたのか、海外留学を検討している人にとってたくさんのヒントがあるのでぜひご覧ください。


2-2. イギリス
イギリスでは義務教育の修了試験としてGCSE(General Certificate of Secondary Education)を16歳の時に受験します。大学進学を目指す人はその後にSixth Form課程へと進みます。2年間の課程では初年度の終わりにAS(Advanced Subsidiary Level)の試験、2年目の最後にはAレベル(Advanced Level General Certificate of Education)の試験を受けます。
大学で専攻したいと思っている分野の試験を3-5科目選択します。例えば、理数系の専攻であれば数学、建築には美術が必要など、大学での専攻によって必要な科目が異なります。多くの大学が3科目のAレベルの試験成績で入学の合否を決めており、一部の大学では、1年目のAS試験の結果から入学の確約が得られることもあります。
試験はAからEの5段階で評価され、Aが最高得点でCまでが合格とされており、大学によって求めているAレベルの成績が設定されています。例えば世界的にも有名なオックスフォードなどの難関大学の人気コースでは3つのAレベルでそれぞれAの成績を収める必要があります。
2-3. フランス
フランスでは中等教育を卒業した高校3年末に一律で受ける大学入学資格試験の「バカロレア試験」を受験します。
バカロレア試験の合格者は原則的にどの大学にも入学ができます。ただし、定員を超える応募のある人気の大学は、バカロレアの成績や志望動機などで入学が決まります。
フランスの「バカロレア試験」は国際バカロレアとは異なり、フランス内での卒業認定試験です。1週間にわたって行われる試験は、論述が中心になっています。
試験の作問や採点は高校教員が行っており、フランスの教育システムではバカロレア試験があるため、小中高学校を通して論述に触れる機会が多く設けられています。
2020年度からはバカロレア試験の40%を高校の内申点で評価する改革も始まるが、公平性が保てないなどの反対の声も上がっている状況です。
2-4. ドイツ
ドイツの学校制度は日本や上記の国々とは大きく異なり、10歳という時点で大きな分岐点をむかえます。
日本の小学校にあたるドイツのグルントシューレは6歳から10歳までとなっており、日本でいう小学校4年生の成績を持って担任の先生等との相談により、5年生以降に通学する学校を決めていきます。
大きく分けると3つの選択肢があります。
①ギムナジウム:大学進学者向けの学校
②レアルシューレ:16歳から事務職など企業で就業する人向けの学校
③ハウプトシューレ:15歳から職人として就業する人向けの学校
ギムナジウムへ進学した人は小学校5年から大学1年生に相当する19歳までの期間をギムナジウムで学習します。
大学入試としては、ギムナジウムで一定の成績を収めた人が受験できる高校卒業認定資格試験と大学入学資格試験の両方の役割を備えている「アビドゥーア」を受験します。アビドゥーアを合格することにより、原則としてどの大学、どの学部にも入学することができます。
アビドゥーア試験の総合点は840点であり、そのうち600点は在学時の成績であり、残りの240点が卒業時に受ける4科目の試験となっており、一発の試験での結果ではなく、在学時の成績も大きな割合を占めています。
内容としても選択式の問題ではなく、論文試験の形式が取られており、高度の思考力が必要とされています。

2-5. 中国
中国では日本と似ており、大学入学試験が行われています。正式名称は「普通高等学校招生全国統一考試」ですが、「高考(ガオカオ・gaokao)」と呼ばれています。
2日間にわたって行われる試験では、国語・数学・外国語が必須であり、それ以外の選択科目を受験します。高考は省ごとに実施されるため、国家統一試験とはなっていません。省によって試験問題が分かれており、選択科目に関しても差が存在しているため、度々地域での差が議論にも上がります。
国家統一試験ではありませんが、高考は本番一発勝負として大学入試の全てを握っている状態です。日本の共通テストのように各大学が設定している二次試験などは存在しません。
中国では試験後に大学へ出願する形式をとっており、高考が実施された後に大学の合格基準ラインが公開されます。自身の点数と比べて合格を狙える大学へと出願する形になります。
2020年には北京市で新制度の「新高考」が行われ、試験期間が今までの2日間から4日間に延長されました。最初の2日は高考が行われ後半の2日は普通高校学力レベル試験が行われました。新たな取り組みが一部行われているのが見受けられます。
3. 求められる力:学び続ける力
上記では日本と海外の教育制度・受験制度の紹介を行いました。それぞれが異なるシステムを活用しており、国としての方針、価値観や今までの歴史を踏まえてそれぞれの制度が成り立っているのが覗けます。
日本の共通テストや二次試験などのテストに比重をおいている国もあれば、米国のような在学時の成績や小論文などに焦点をおいている国も見受けられます。また同じような大学入試試験等が存在する国でも選択問題ではなく、論述を重視している等、改めてどのような力を重要視しているのかが伝わってきます。
ただ、どの国のシステムも課題があり、一定数の批判が上がっているのも事実です。特に各国では現在のシステムでは今後の社会で必要とされる力を本当に測れているのかが議題に上がっていることも多く、試験の改革が行われ始めているまたは改革を始めるための議論が上がっています。
そんな中、OECDが将来の職場で必要になってくるスキル等をまとめた「2019 Skills Outlook」や「Future of Jobs Report」の中では重要なスキルとして学び続ける、新しいことを学び直すという点が挙げられています。
OECDはテクノロジーの発展によって、2025年までに現在の50%の労働者がスキルの更新が必要だと発表しています。また今後テクノロジーの発展によってOECD加盟国の中で、自動化される職は平均して14%あり、さらに32%はタスクにおいて大きな変化を迎えるとされています。
2025年に必要なTop 10スキルとしてあげている中でも、問題解決能力に関連したスキルが多い中、「Active Learning and learning strategies」として能動的に学ぶこと、学ぶ戦略を身につけることも大事なスキルになっています。

先行きが不透明な世界だからこそ、特定のスキルを一度習得しただけでは生涯働き続けることはできず、常に学び続けること、学び直すことが今以上に必要とされているのが伺えます。

4. まとめ
今回の記事では、日本や海外での受験制度に焦点を当ててみました。異なるシステムを活用していますが、どの国でもどうしたら次世代の若者が今後の社会で生き抜くための力を育めるのか、それらの資質をどのように測るべきかが受験制度として問われているのがわかります。
場合によっては現在や近い将来で必要とされているスキルと既存のシステムでの差異が見受けられ、それらを埋めるために改革が行われています。
ただ、最後のOECDのレポートでも紹介されたように学び続けることが一つの大事なスキルとなっており、今後も大学等の学生生活が終わった後でも一人一人が成長し続けることが求められます。
成長し続けることに興味がある方は下記のグロースマインドセットの記事や具体的な方法を示している効果的な練習の記事をご覧ください。

