「 誰もがイキイキと生きれる社会を目指して 」上原回恩

Katsuiku卒業生インタビュー 上原回恩プロフィール写真

上原回恩(かいおん)

2019年に日本初の全寮制インターナショナルスクール UWC ISAK JAPANの第3期生として国際バカロレアを修了。2018年には、UWC Li Pho Chunで開催される日中青年会議のオーガナイザーを務めた。中学生の頃から、人々のワクワクに注目した様々なワークショップを主催し、現在は人間の根本に眠る欲求と実際にとる行動が最もリンクした、「偶然の幸運と出会える体験」を提案できる、スタートアップを立ち上げ中。


自分の好きを追及し、高校卒業後に会社を立ち上げる

―― 高校を卒業後、会社を立ち上げられたと伺いました。大学進学を選ばずに起業の道を選択された理由を教えてください。

Katsuiku卒業生インタビュー 上原回恩 誰もがイキイキと生きれる社会を目指して

回恩: 高校生になった頃から、モビリティ、特に自転車での移動に興味が出てきたんです。というのも、僕は長野にあるISAKという全寮制のインターナショナルスクールで暮らしていたのですが、場所が山奥なんです。近くのコンビニに行くのに、何十分も歩く必要がありました。そこで、中古のマウンテンバイクを買ってきて、自分でかっこよく改造したんです。すると周りの友達が、「めっちゃかっこいいじゃん!貸してよ。」という依頼が増え、いつの間にか僕の自転車が人気になり、台数を増やしてQRコードで管理しながら対応するようになりました。

何より嬉しかったのが、自分が好きな自転車をみんなが喜んで使ってくれる、自分も友達もWIN-WINな関係がとても心地よかったんです。そこで、これをISAK内だけでなく、軽井沢全体で広げたらどうなるのかと思い、調査を始めました。そこで分かったことなのですが、15店舗ある軽井沢のレンタサイクルショップは各店舗と連携しておらず、返却方法が不便で使いずらいことが分かったんです。これを上手く連携させたら、事業チャンスになると思って始めたのが、起業のきっかけですね。自分の好きなことを追及して、それで事業化できると確信したので、あえて大学に行く必要性は感じませんでした。

―― 起業することにご家族は反対されませんでしたか?

回恩: 起業しようと思ったとき、母は真っ先に賛成してくれると思っていました。今までも僕のやりたいことは何でも応援してくれてましたからね。だから「高校卒業したら起業しようと思う。」と伝えたとき、「起業ではなくまず大学に行って欲しい」と言われた時は、衝撃でした。そこからですね、これからやろうとしている事業の意義や、モビリティサービスが導入されることで、自分だけではなく、コミュニティにとってどんなメリットがあるのか、論理的に説得できるプレゼンテーションを作り上げました。このプレゼンを見た母は、最後には「いいじゃない、これ。絶対にやりなさいよ!」と逆に応援してくれるまでになったんです。


モビリティの価値を最大化し、ワクワクする体験を届ける

Katsuiku卒業生インタビュー 上原回恩 モビリティの価値を最大化し、ワクワクする体験を届ける

――今後はどのように事業を拡大していきたいと思っていますか?

回恩:今後は自転車に特化した事業だけではなく、「多種多様なモビリティの価値を最大化し、最も個人に適した提案」ができるような事業を展開していきたいと思っています。どういうことかというと、モビリティを用いて、街の人・物・コミュニティを繋ぎ合わせ、人々に新しい出会いや発見を届けると共に、さらなる価値の創造を行い「イキイキした世界」を実現していきたいと考えています。乗り物というものを、ただの「交通手段」として使うのではなく、目的地までのプロセスの中で個人にとってワクワクする体験を合わせて提案できるものにしてきたい。

僕の根底には、世界中の人が本当に自分がやりたいと思ったことを実行できる社会を作りたいという強い思いがあるんです。それは今まで自分が本当に好きなこと、やりたいことをやってこれたからなんだと思います。


両親のおかげで磨かれた感性と論理的思考力

――やりたいことを追及できるようになった背景は何と考えられますか?

回恩:うちの家庭は本当に自由な環境で、僕のやりたいことはとことん何でもやらせてくれました。母は根っからのアーティストで感性の大切さを教えてくれました。母はいつも僕がどんな気持ちなのか聞いてくれて、自分の気持ちや感情を受け止めて大切にする力が身についたと思います。よく驚かれるのですが、僕は生まれてから一度も「自分はダメだ」なんて感じたことがないんです。もちろん何か物事が上手くいかない時は冷静に反省することはありまが、それが自己否定に繋がることは全くありません。自己肯定感が強いと言われますが、どんなマインドでいれば自分が楽しく心地よく過ごせるかを常に意識しているだけなんですけどね。笑

Katsuiku卒業生インタビュー 上原回恩 両親のおかげで磨かれた感性と論理的思考力

父からは逆にロジカルに考える大切さを教えてもらいました。父はとにかく論理的なんですよ。客観的に一歩引いて全体を捉える力がすごく高い人なんです。人って色んなことで悩むと思うんです。ただ多くの場合、小さなことに囚われすぎてしまっているような気がします。俯瞰してその問題を捉えて、より上のレイヤーで見ていけば、どうすれば解決できるのかが次第に分かってくる。自分がネガティブにならずに常にポジティブで、自分の感情を大切にしながらやりたいことをできているのは、間違いなく両親のおかげだと思っています。


人やコミュニティの大切さに気付く

――どのような幼少期の体験が今に繋がっていると思いますか?

回恩:僕は小さい頃、3つの幼稚園(モンテッソーリ教育だったり、自由な校風の幼稚園)を経験しました。そこで自分の土台を作れたと思っています。特に「自分を表現する」ということに関して、他人に対して自己開示することの恐怖心がなくなったと思います。だからこそどんな状況であっても人と比較せず「最も自分らしく」いられるようになりました。

小学校高学年からは、長野県に引っ越し、問題解決型学習(PBL)をやっている小中一貫校に入学しました。その時に、建築に興味を持って、PBLの時間でも建築の探究を行っていました。すごく楽しかったですね。特にガウディが大好きでした。それでサグラダ・ファミリアを見にスペインまで行ったんですよ。でも驚いたことに、全然興奮していない自分に気付いたんです。なんでなんだろうって追及していくと、僕はその建築に関わっている人やそこで生まれるコミュニティ、建築家の思いを知ることに興奮するんだということに気付きました。「人やコミュニティ」に最も強く関心があったんです。

――人やコミュニティに関心があると気付かれてから何か変わりましたか?

Katsuiku卒業生インタビュー 上原回恩 人やコミュニティの大切さに気付く

回恩:自分で何かコミュニティを作ってみたいと思うようになりましたね。というのは、スペインから帰国後、周りの生徒に注目するようになったんです。そこで気付いたのは、学校内にはせっかくPBLという素晴らしい授業の時間があるのに、みんな上手く活用していないことでした。その理由は、カリキュラムがあまりに自由で、みんな「これをやりたい!追及したい!」と思えるようなテーマが見つけられなかったからなんです。そこで自分がみんなに興味をもってもらえるようなワークショップを開催することにしました。毎回異なる建築、映画、本などをテーマにしました。実際にやってみて、みんながすごく楽しそうで、その光景を見ていると自分も嬉しかったですね。

中でも一番印象的に残っているのは、高齢者の方と一緒に作り上げたワークショップでした。自分が通っている学校の横に、高齢者の方が共に暮らすシェアハウスができると聞いたんです。そこですごく興味が沸いて、シェアハウス作りに参加しにいきました。元々建築に興味があったので、作る作業自体は楽しかったです。ただ、実際に作り終えて高齢者の方が暮らし始めたときに、「寂しい」というお声を聞きました。ただ空間を作るだけではダメなんだと気付きました。そこでこのテーマでワークショップをやろうと決めて、高齢者の方に学校まで来てもらったんです。生徒たち自身も生の声を率直に聞かせてもらえるし、高齢者の方もたくさんの生徒と関わって気持ちを伝えられることで、すごくいい場づくりが行えたと思います。みんなとても楽しそうで、僕も嬉しかったです。


――最後にどんな人もイキイキとしていくためには今後どんな教育が必要になってくると思いますか?

Katsuiku卒業生インタビュー 上原回恩 メッセージ

回恩:僕は教育というのは、人の根幹を養い育てるものだと思っています。木を例にすると、地中に根を張り巡らせて、しっかりとした土台があるからこそ、真っ直ぐな幹を作ることができる。成績や進学実績などの結果は、枝葉にすぎません。自分がどういう人間なのか、内省し、探究していくこと、そんな子供たちを親や学校は積極的にサポートしていくことのできる環境がとても重要だと思います。

それから、「なぜ」と考え始め、生徒が何かプロジェクトを始める上での内発的きっかけがないのではないかという仮説のもと、毎回様々なテーマと、そこに携わるプロフェッショナルの方をお招きして、自分主催のワークショップを主催しました。(きっかけ作りのために)

今の子達ももっと、自分が本当に何をしたいのか、真剣に考えて、追及して、まずはそれを小さなことからでもいいから始めてみる。それを続けていって、色んな人からフィードバックをもらったり、コミュニティに参加して色んな人と関わったりすることで道は開けてくると思います。