やる気を出す方法とは?:心理学の動機づけとモチベーション・自己決定理論をひもとく

やる気・モチベーションとは?

『どうやったら生徒やクラスのやる気を引き出せるのか?』
『やる気さえ出してくれたらうちの子も色々なことができるはずなのに』

多くの先生や保護者から、上記に関する悩みを伺います。

そもそも「やる気」とは何でしょうか。人の「やる気」はどのように引き上げて、維持することができるのでしょうか。
「モチベーション」または「やる気」について、心理学では『動機づけ』と表され、研究されています。この記事では、『動機づけ』の定義と心理学の「自己決定理論」、理論を使ってできるやる気の出し方について、ひもといていきます。

まず心理学として「動機づけ」には2種類あります。「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」です。

内発的動機づけとは?

内発的動機づけは『興味を持っているから行う』、『楽しい・好きだから取り組む』など自発的に物事に取り組んでいることです。

外発的動機づけとは?:

外発的動機づけとは外部からの報酬、例えば『あとでご褒美をもらえるからやっている』や他の人から頼まれた・要求されたから行うこと(『先生に言われたからやっている』など)を指しています。

心理学から見た「やる気」にさせる理論:自己決定理論

外発的動機と内発的動機という考え方をまとめた理論の一つとして多くの心理学者から支持されているのが、Deci氏とRyan氏が発表した『自己決定理論(Self-determination theory)』です。

今回は『自己決定理論』を噛み砕きながら、教育現場やお子さまとのやり取りの中でも活用できる方法を探っていきます。

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「やる気がない」無気力から「やる気がある」までの段階

自己決定理論が発表されるまでは、外発的動機と内発的動機は対立しているように思われることが多くありました。

しかし、自己決定理論ではこれらは対立している2つの項目ではなく、自己決定の度合いによって連続性を持って表せるものだと定義されています。二項対立ではなくグラデーションで表せるものです。

自己決定が全くなく、やる気・モチベーションも全くない「無動機づけ」の段階から自己決定が最大となり、「内発的動機付け」(楽しい・興味があるからやっている)という状態までを6段階で表しているのが下記の表となります。

自己決定論の6つの段階を表した表

上記で表されている『内在化』とは外部の要因と自分の関わり具合をどこまで自分の内側と一致することができているかを示しており、下記にてそれぞれの段階での動機付けのレベルを噛み砕いています。

段階①:無動機

活動に対して全く動機付けがされていない状態

段階②:外発的動機付け – 外的調整:

報酬を得るため、罰を避けるため動機付けられている状況。外的要因によって行動が調整されている。

段階③:外発的動機付け – 取り入れ的調整:

部分的に内在化が起こっており、明確な外的要因がなくても行動が見られる。ただ、目的は人から認められたい、自らの不安を下げたい、恥を避けたい(自己価値を守る)等で多少自己決定的な部分もあるが外的要因によって行動が調整されている。

段階④:外発的動機付け – 同一化的調整:

行動に価値があると考え、自分が得られることが同一化している。自分のためになる、または将来のためになるなど個人的に重要だと考えているから行動している。

段階⑤:外発的動機付け – 統合的調整:

自己決定の度合いが高まり、行動に対する同一化が進み、矛盾なく自分の価値観と一致しているため行動が行われている。何かのためではなく、自分にとって意味があるという状態であり、無理なく、自然体で行動することができている。

段階⑥:内発的動機付け – 内発的調整:

完全に自己決定的な状況で行動自体が目的となっており、それに対して興味や楽しさなどの感情があるから自発的に行動している。

こちらの表から自己決定理論では外的要因は悪いもので内発的要因が正しい等の単純な構造ではなく、組み合わせによって段階が組まれていることが分かります。

では自発的に行動を続けるには何が必要なのでしょうか?

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やる気の出し方:心理学から3つの欲求を満たす

自己決定理論ではDeci氏とRyan氏は人が自発的に行動を続けるには下記の3つの欲求を満たすことが大事だとしています。

  1. 自律性の欲求 (Autonomy)

2. 有能性の欲求 (Competence)

3. 関係性の欲求 (Relatedness)

自律性の欲求 (Autonomy):

自ら行動を選択し、主体的に動きたいという欲求。他者に強制や要求されたのではなく、自ら始めて終わりも自ら決められること。

有能性の欲求 (Competence):

自分はできる、能力がある感じることへの欲求。これを満たすために知識を増やしたり、新しいスキルを身につけるために練習に励んだり、成長を促すための行動する。

関係性の欲求 (Relatedness):

他人と互いに尊重しあえる関係を作りたいという欲求。深い友情や親密な関係を築きたい、集団に属したい、社会に貢献したいという欲求が含まれる。

この3つの欲求が満たすことができれば、人は継続して自発的な行動を取り続けることができます。

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家でも教室でも活用できる「やる気」を引き出す方法

ここまで自己決定理論を噛み砕いてきましたが、それでは家での勉強や授業の中で生徒や子どものやる気をあげるにどのように活用することができるのか。

一つは、生徒や子どもが取り組む行動が上記の3つの欲求を満たす形を作ることが挙げられます。

1、自律性の欲求を満たすために学びの中で生徒自身が学習課題や学習方法を選ぶ場面を組み込むことも可能である。

家での勉強であれば、1日の中で勉強してほしい大きな項目は保護者側で作っておいて、それをどのように達成するかは子どもの方で提案して決めていく。例えば、今日は国語を1時間、算数・数学を1時間、理科を1時間することを提示して、それぞれを具体的にどのように進めるかは子どもに提案してもらう。ただゲームをやるのではなく、ゲームの戦略を分析したレポートを10ページでまとめるのであれば国語としてカウントするなど。大枠は保護者が決めた上で中身は子ども達が選ぶことが大事です。

授業であれば一つの課題に対して、グループディスカッションで授業を進めたいか、各自でリサーチをする形を取りたいか生徒に決断させます。授業の目的は一つ決まっているかもしれないが、その目的にたどり着くまでの道のりは一つに限る必要はありません。

2、有能性の欲求を満たすためには、新しいスキルが身についている等の成長を実感させる機会を子どもに与える

家での勉強であれば、子どもが努力の末、成長している点をピックアップして褒めてあげる時間を作ることが一つの方法です。一緒に振り返りの時間等を設けて、ここ数日間でレベルアップしたと思う点を本人に振り返ってもらったり、親から見て成長した点を指摘するのも効果的です。褒める際にはぜひ結果だけではなく、その結果にたどり着いた過程を褒めてあげてください。詳しくはこちらの記事をご覧ください「グロースマインドセットとは?誰でも取得できる成長し続ける人の共通点」

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授業でも同様に定期的に自らの自己評価を行い、過去の自分との成長を比較したり、生徒同士または教員が生徒の成長したと思う部分を褒めるなども効果的な手段として挙げられます。

3、関係性の欲求を満たすためには、個人だけの作業ではなく、他者と一緒に目的を達成する過程で絆を作る機会を入れることも考えられます。

家での勉強であれば、少し難しいかもしれませんがオンラインで友達と繋がって行う作業を入れたり、または保護者と一緒に取り組む作業を入れることも効果的です。家の中で一緒に勉強するのであれば、工作や家庭科としてペーパークラフトに取り組んだり、一緒に料理をするのを勉強として捉えて行うのも一つの手かもしれません。

授業であれば、個人作業だけではなくグループワークなどを取り入れてチームとして課題を達成する要素を取り入れると関係性の欲求を満たしやすくなります。アイスブレークなどを取り入れてチームの関係性を作りながら課題に取り組むことでただ単に作業を行うのではなく、お互いの関係性・絆を築きながら作業を進めらます。

また、上記以外にも外発的動機付けや内発的動機付けの表から読み取れるように、生徒に学びの目的を彼らにとって意味がある形で伝えることで『内在化』を促すことも可能である。

『なぜ』その科目を学ぶ必要があるのか?それらを学ぶことによってどのような価値が個人として得られるのか?それらを明確に提示することで無動機付けの状況から内発的動機付けの状態へと移動できます。

 

生徒たちが物事を決める学校:サドベリー・スクール

授業で行える取り組みについて言及してきたが、自らが決定することを学校の軸としている学校も存在します。その一つがサドベリー・スクール(Sudbury School )と呼ばれる教育モデルである。

サドベリー・スクールとは、アメリカのボストンにあるサドベリー・バレー・スクールに共感し同じ理念に基づいて運営している学校のことを指しており、これらを活用している学校では、学校のルールを生徒・先生・スタッフが民主的に決定し、そのルール内で自由に学べるというモデルです。

自分たちが学ぶ環境に対して自ら決定できるシステムになっているため、生徒は自由とそれに伴う責任を理解しながら自ら学ぶ環境を作ることができます。自己決定論での自律性の欲求を満たすシステムであり、民主的な方法を重んじるため別名デモクラティック・スクールと称されることもあります。

自己決定理論の要素を活用して、一つの授業や子どもとのやり取りに変化を起こすだけではなく、学校というシステムを新しい形で運営することも可能です。

今回噛み砕いた自己決定理論の要素をぜひ活用し、モチベーションや「やる気」を引き上げる仕組みに挑戦してみてください。

参考:
Ryan, R. M., & Deci, E. L.(2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Phychologist, 55, 68-78.

櫻井茂男:自ら学ぶ意欲の心理学,有斐閣,東京,2009.

Sudbury Valley School https://sudburyvalley.org/