子ども達が学校で取り組む地域課題の解決実例ー総合学習の時間を活用ー

「こんな独自のプログラムを行っている学校があるんだ!」

「こんな面白い教育を実施している先生がいるんだ!」

など、テレビの報道や、雑誌等の記事などで取り上げられるような、自分や子どもが通っている学校では体験したことのない教育やプログラムを実施している学校があります。

今回は独自で面白い、地域に根付いた教育やプログラムをご紹介したいと思います。

もくじ
1: 総合的な学習(探究)の時間
2: 反貧困学習ー大阪府立西成高等学校
3: 「 地方創生×キャリア教育 」プロジェクトー広島県三原市立 糸崎小学校・幸崎中学校
4: 高校生のアイデアを元にした地域課題の解決プロジェクトー高知県立大方高等学校
5: まとめ

1. 総合的な学習(探究)の時間

「総合的な学習(探究)の時間は、変化の激しい社会に対応して、探究的な見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための資質・能力を育成することを目標にしていることから、これからの時代においてますます重要な役割を果たすものである。」と文部科学省で言われています。

特徴は、体験学習や問題解決学習の重視学校・家庭・地域の連携を掲げていることです。内容は、国際理解、情報、環境、福祉・健康などが学習指導要領で例示されています。

小・中学校は2002年度から、高等学校では2003年度から実施されている学習活動で、その授業内容については、各学校にゆだねられていて定められた教科書はありません。

ですから各学校では、地域の特色を活かした授業やボランティア活動、自然体験活動、社会体験活動、国際理解・英会話学習など工夫を凝らした授業を展開しています。総合的な学習の時間を通して、「生きる力」の育成を目指しています。

2. 反貧困学習ー大阪府立西成高等学校

大阪・西成は、高度成長期以降、日雇い労働者が多く集まった街で有名です。
「ドヤ」と呼ばれる簡易宿が立ち並び、東京の山谷・横浜の寿町と並ぶ「三大ドヤ街」のひとつです。

西成にある宿は一泊1000円以下の安宿が多く、西成にはその安宿に泊まる人だけでなく、路上生活者も多く、しばしば公園で炊き出しなども行われています。

生活保護受給率が全国1位である大阪においても、西成区の生活保護受給率は、23%、25,007人(2021年時点)と、大阪の中でも群を抜いて高くなっており、これは全国平均の約18倍にもなる数字です。

また西成の高齢化率は36.81%(2020年時点)と非常に高く、貧しい高齢者世帯が多いことがこの地区の課題となっています。

そして、西成では母子世帯(シングルマザー家庭)割合は14.15%で、全国平均8.48%と比べて非常に高い数値になっています(2015年時点)。西成の大きな問題、それは親から子へと貧しさが受け継がれる「貧困の連鎖」でした。

そのような地区にある大阪府立西成高等学校に、山田勝治校長が15年前教頭として赴任してきたころ、学校は荒れに荒れていたといいます。

学校への不信感、先生との敵対関係などから、年間100人ほどの生徒が、退学していたのです。(高校中退ということもまた貧困の連鎖に繋がります。)

そこで2006年に人権教育に長けた前比呂子校長を迎え、生徒や家庭の実態調査を通して「こどもの貧困」が荒れた学校と関係することを突き止め、「格差の連鎖を断つ!!」ことを目指し、「反貧困学習」が始まりました。

総合学習の一環として行われるこの授業では、生徒たちに「自分が置かれた状況を意識させる」ことからスタートします。

生まれ育った家庭のこと、格差や貧困が連鎖する社会の現状を理解し、どうしたら自分の力で克服できるのか学びます。

また、労働者の権利や社会保障制度などを学び、生徒たちが不当な立場に追い込まれたとしても法律や権利の観点から雇用主と戦う知識を身に着けます。

他にもシングルマザーになった時に、行政から受けられるサービスや制度がどのようなものがあるのかを授業中に調べ、学ぶこともあります。

このような取り組みを経て、生徒と先生が信頼関係を取り戻すことに成功し、非行や中退が、少しずつ減っていったとのことでした。(当時18%だった中退率は2017年度では 7.5%まで減少)また、2013 年には学校斡旋就職 100 人超(府立高校では非常に多い数)で就職率 100%を達成しています。

親や学校が子どもに与える影響についてや、逆境に強い人を育てるための方策を下記のブログで紹介しています。ぜひお読みください。

データから見た逆境に強い子どもを育てる方法
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3.「 地方創生×キャリア教育 」プロジェクトー広島県三原市立 糸崎小学校・幸崎中学校

広島県三原市では、「キャリア教育から新たな地域特産物を創造」をテーマにキャリア教育のプロジェクトが進んでいます。

地方創生に向けた取組として、小・中学生と地元企業との連携によるキャリア教育事業を実施しています。未来を担う子どもたちと、まちで働く人々が力を合わせて、新たな地域特産物を創造し、まちのにぎわいづくりに挑戦しています。

事例1:新たなくりーむパンが誕生!ー糸崎小学校と㈱八天堂との連携ー

2016年のプロジェクトでは、市立糸崎小学校の5・6年生計33人とともに、八天堂が参加しました。

三原市では、地方創生の取組の一つとして、「食のブランド化」を推進しており、小学生と地元企業でスイーツの新たな特産品を共同開発し、商品化する取り組みを行っています。

33人の児童のアイデアを活かして新たな地域特産物を八天堂と共同開発し、約半年の期間、試行錯誤を重ね、チョコバナナくりーむパンが誕生しました!

この半年間の間には、「八天堂」の工場を見学し、実際の商品づくりの工程を学んだり、新たな地域特産物を具体的にイメージするために、子どもたち全員がアイディアを持ち寄り、意見交換を行い、企画書にまとめるなどの提案を行っています。

最後は、関係者の方にプレゼンテーションを行い、三原駅前で実施された「浮き城まつり」において新しいクリームパン「チョコバナーパン」を一般のお客様へ向けてお披露目するなど、企画から販売までを子ども達が行いました。

事例2:三原のご当地ラーメンが誕生!ー幸崎中学校とKOH(株)ラーメン康との連携ー

2017年のプロジェクトでは、幸崎中学校の生徒と三原市のKOH(株)のラーメン康が参加しました。

生徒達は、KOH(株)のラーメン康・宮浦店を見学し, 実際のラーメン作りとお店のサービス内容等を学びました。

その後、新たな地域特産物(三原”らしい”ラーメン)のイメージを思い浮かべ生徒一人ひとりが具体的なイメージを描き、 それをグループで持ち寄り発表して企画を共有しました。

生徒たちが考えた新たな地域特産物の企画について、関係者に対してプレゼンテーションを行った後、商品開発の企画案が通り「浮城(うきしろ)三原ラーメン」が誕生しました!

その後は、道の駅みはら神明の里で販売を行うと同時に、三原教育「希望と未来フォーラム」で生徒たち自身が発表を行いました。

4. 高校生のアイデアを元にした地域課題の解決プロジェクトー高知県立大方高等学校

高知県黒潮町は、人口約1万人、約5000世帯の小さな町です。2003年に、その町にある大方商業高校の廃校が決定され、高校が地域最大の「空き家」になり地域全体が衰退することが懸念されていました。

学校が廃止されることで、校友会・PTA・地域から大きな反対運動が起こり大混乱を招くことなりました。そこで、地域住民・保護者・教育関係者からなる『学校の未来を語る会』を発足させ、新しい学校「大方高等学校」の学校像・教育課程・学校システムなどの基本を策定することなりました。

『学校の未来を語る会』は、『生徒には夢を、保護者には希望を、地域には信頼を!』をスローガンとし、地域参画型の学校として、新しい学びのシステムを作りあげました。2006年にはコミュニティ・スクールに指定されています。

生徒の発想力やコミュニケーション力、地域理解の育成を図るとともに、学校及び地域活性化を目指した取組として、高知大学と連携して開発した「自立創造型課題解決学習プログラム」(総合的な学習の時間に位置づけ)を実践することなりました。

2年次には企業やNPO、町役場の人々から提案される地元課題に関連した「ミッション」を選択し、解決策を検討・発表するということを実践しています。

具体的には、「あかつき館(文学館)の入場者を10倍にせよ!」「土居建具店をブランド化せよ!」「名産「ラッキョウ」を売ろう! 年間売り上げ10億円」「道の駅「ビオスおおがた」に集まろう!」などの町の課題を15のミッションとして黒潮町長が提示しています。

町当局としては、発想のよい企画・アイディアは、町の事業として実現する意向があり、一年生60名は、総合的な学習の時間を活用し、班毎にミッションに挑戦しました。

実際に現地調査に出向き、調査するとともに、高校生らしいアイディアいっぱいの解決策をまとめ発表しています。(この際に高知大学・慶応大学ゼミの指導協力がありました)

また、黒潮町地域再生の一環として、学校内に起業者・事業者支援雇用対策施設として『テレキューブ』が設立されました。現在4事業者が入居し、企業活動を実施しています。校内インターン施設として日常的な活用による教育効果が狙いです。

このような取り組みを通して、周囲からは「大方高校は変わった!」・「生徒の活躍が見え始めた」と一定の成果を聞く声が聞かれるようになりました。

実際には、地域と連携した授業展開等により生徒の地域理解が深まるばかりでなく、地域の課題解決や活性化に大きく寄与しています。(自立創造型課題解決学習プログラムで開発された「かつおタタキバーガー」や「流木を活用したベンチ」等々の様々な商品がヒットし、地域のPRになっています。)

OECD(経済協力開発機構)では、「生徒エージェンシー」として「変革を起こすために目標を設定し、ふり返りながら責任ある行動をとる能力」がますます重要になると発表しています。生徒エージェンシーについて、下記リンク先から詳しく読めます。

「生徒エージェンシー」とは?−VUCAの時代に必要な“自分ごと化”する力
「生徒エージェンシー」とは?−VUCAの時代に必要な“自分ごと化”する力
もくじ 1. OECDの打ち出した生徒エージェンシー/Student Agencyとは?主体性・オーナーシップとの違い 2. なぜこれからの社会で生徒エージェン.....

5. まとめ

いかがでしたでしょうか?ご自身やお子さんが体験したことのない特徴あるカリキュラムが全国にはまだまだあります。

日本各地の地域で抱えている課題はそれぞれであり、その課題を解決していくためには、地域に住む住民全員で取り組んでいくことが必要です。

小学生、中学生、高校生もその地域住民の一人として、地域の課題を学び、解決していくためには何ができるのだろうかと考え、実践する機会を持つことは今後とても大切になっていくと思います。

他にも地方創生に関する記事はこちらをご参考ください。

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