子育てにも活用できるネガティブな感情の対処法

ネガティブな感情を感情を持つのはあまりいい気分ではありません。

しかし、そのつもりはなくても、子どもにたいしてついカッとなって怒ってしまうことは誰しもあると思います。

他にも、周りの人からどう思われているか気になり不安になってしまった事もあるでしょう。

このように、普通に生活していたらネガティブな感情を持つことはごく自然なことです。

しかし、感情は頭で考えるより先に体の反応として出てきてしまうため対処が難しく、上手く対処できずに悩んでいる人も多いと思います。

一見難しそうなネガティブな感情への対処ですが、ちょっとした取り組みを積み重ねていくことで対処できるようになります。

今回は、ネガティブな感情が沸き起こるメカニズムを読み解きながら、エビデンスに基づいてネガティブな感情へ対処するための具体的な方法を探っていきます。

もくじ
感情のメカニズムに関する内容・エビデンス
感情のコントロール方法:再評価と抑圧について
1:再評価
2:抑圧
3:再評価と抑圧の効果の違い
ネガティブな感情を再評価する具体的な方法
1:自分の感情を可視化してみる
2:特定の場面で自分が取りたい態度を思い浮かべる
3:思い描いた姿を書き出してみる
4:自分が取りたい行動が取れるような「信念」を考えてみる
5:変更したBの考え方を思い出すリマインダーづくり
まとめ

感情のメカニズムに関する内容・エビデンス

そもそも、私たちの感情はどのようにして現れるのでしょうか?

ネガティブな感情に限らず、感情が引き起こされるメカニズムについては、感情を引き起こすきっかけ(出来事など)の捉え方によって説明されることが多いです。

例えば、「子犬にすり寄られて嬉しかった」という場面を取り上げると、嬉しいという感情が湧くきっかけが「子犬にすり寄られた」という出来事だったと解釈することができます。

他にも、「自分の子どもが駄々をこねてイライラしてしまった」という場面では、イライラという感情が子どもが駄々をこねたことによって湧いてきた、と捉えることができます。

しかし、子犬が苦手な人にとっては子犬がすり寄られたら不快に感じる人もいるでしょうし、子どもが駄々をこねてもイライラしない人も中にはいるかもしれません。また、以前は苦手だった子犬が好きになったことで、子犬にすり寄られて嬉しく感じるようになることもあるでしょう。

このように、物事をどう捉えるかは人によっても異なりますし、自分の興味や知識が変わることによって捉え方が変わり、湧き出てくる感情も変わってきます。

このことからも、どのような感情が湧いてくるかは目の前で起きた出来事をどう捉えるかが大きく影響してきます。もし、目の前の出来事をポジティブに捉えればポジティブな感情が湧いてきますし、ネガティブに捉えればネガティブな感情が湧いてきます。

感情のコントロール法:再評価と抑圧について

上記の感情のメカニズムをより詳しく理解するには、スタンフォード大学のジェームス・グロス博士が研究している感情コントロールが参考になります(Gross & John, 2003)。

グロス博士は、感情と行動の一連のプロセスを以下の4つのステップで説明しています(図1)。

1.刺激を受ける

2.受けた刺激の意味づけ

3.意味づけに対して感情の反応が出る

4.出てきた感情に関連した行動や態度が表に出る

先程の例を上記の3つのステップに当てはめると、

1.子犬がすり寄る(刺激)

2.子犬にすり寄られたことが自分にとってはいいことだと意味づけられる

3.子犬にすり寄られたことがいいことだと感じられ嬉しい感情が湧く

4.嬉しい感情によって笑顔になる

となります。

感情のコントロール方法については、上記モデルの1から3を「感情によって反応する前」、4を「感情によって反応した後」と2つのフェーズに分けて、それぞれに適した感情のコントロール方式を長年研究しています。

前者の「感情によって反応する前」のフェーズでは、再評価(reappraisal)と呼ばれる方法を使います。これは、受けた刺激に対する自分の意味づけや評価をコントロールして感情をコントロールする方法です。

後者の「感情によって反応した後」のフェーズでは「抑圧」と呼ばれる方法を使います。抑圧は、一度出てきた感情を文字通り抑圧して、感情を抑え込むことでコントロールしようとする方法です。

1:再評価

先の子犬の例では、子犬にすり寄られたことはポジティブな意味だと評価していることから、嬉しい感情が湧いてきますが、もし子犬にすり寄られる事を嫌なことだと意味づけしていた場合は、嫌悪感などのネガティブな感情が湧いてきます。

これは子育てや教育場面でも同じことが言えます。例えば、自分の子どもにはサッカーをやって欲しいと思っていたのに、あまり意欲的にサッカーをやってない様子を見て残念な気持ちになるような場面もあるでしょう。

この場合でも、サッカーを意欲的にやっていない姿が「刺激」となり、その結果残念な感情が湧いてくる、という関係になっています。

このような捉え方をコントロールして、自分にとって望ましい感情が湧きやすくするような取り組みが再評価にあたります。

2:抑圧

一方、一度湧き上がった感情を抑え込もうとする働きが「抑圧」になります。

子どもが自分の物を片付けない様子に腹を立ててしまった時に、この怒りの感情を抑え込もうとするのは、抑圧のわかりやすい例と言えます。

他にも、賞を取った時に嬉しい気持ちをグッと堪えて相手に敬意を示そうとするのも、嬉しい感情を抑圧している例になります。

3:再評価と抑圧の効果の違い

再評価と抑圧は決して特別な方法ではなく、むしろどちらかの感情のコントロール方法は無意識に使っていることが多いと思います。

ですが、それぞれの方法が心理面に与える影響は異なることが、研究によって明らかになっています。

抑圧は、感情を抑え込む形で感情をコントロールすることは可能ですが、感情を抑え込む行為その物がストレスになってしまいます。また、人との関わりやコミュニケーションの最中などでの抑圧は、あまり効果的でないことも明らかとなっています。

ご自身の体験でも、相手の話に腹が立ってその感情を抑え込もうとした時に、この感情の押さえ込みをストレスに感じたことがあるのではないでしょうか?また、相手の様子を伺って感情や気持ちを堪えている時は、ストレスや不満が溜まることが多いと思います。

一方で、再評価はネガティブに捉えていた事をポジティブに捉え直すことができることから、捉えている事を再評価することはあまりストレスがかからず、対人関係時にもポジティブに働くことが多いとされています。

再評価を使用する上で課題となるのは、事前に取り組んで物事の捉え方を準備しておく必要がある点です。感情は頭で考えるよりも反応として態度や表情などに現れるので、準備や考え方が身についてない場合は従来の捉え方で反応してしまいます。その場合は、抑圧によってコントロールすることになります。

このように、抑圧と再評価にはそれぞれの方法によって得られる効果や特徴があります。

ネガティブな感情を再評価する具体的な方法

抑圧も感情のコントロール方法として一定の効果がありますが、今回はよりメリットの多い再評価に取り組む方法に焦点を当てていこうと思います。

1.自分の感情を可視化してみる

自分がどのような場面でどんな感情が湧いているかは、意外と把握できていないことが多いと思います。

そこで、ラッセル感情環と呼ばれるモデルを活用して感情を可視化するのが効果的です(江川ら, 2019)。

    図2. ラッセルの感情環(江川ら (2019)より参照)

ラッセルの感情環では、感情を覚醒、沈静、不快、快の4つの側面から感情のタイプを分類しています。例えば、「興奮した」は比較的感情的な覚醒度が高く、感情の快感度はそこまで高くない場所に位置付けられています。また、「怒り」は比較的不快で覚醒度も高い感情として位置づけられています。

しかし、怒りの感情はネガティブに働く側面がある一方で、モチベーションを高めるようなポジティブな側面もあるため、一概に全ての感情が「怒り」として分類するのが難しいです(Barrett, 2016)。そのため、今回はあくまで感情の種類やタイプを参考にする資料として活用してもらうのが望ましいです。

モデルに記載されている感情が全てではありません。しかし、大まかにでも感情について気づきが得られれば、場面場面で感じる感情についても把握することができるようになります。

2.特定の場面で自分が取りたい態度を思い浮かべる

次に感情のコントロールをしたい場面を思い浮かべて、その時に出てくる自分の感情を確認します。

例えば、子どもが自分の物を片付けない場面に出くわした時に、自分はいつもイライラしてしまっているとします。

この時、本当はあまりイライラせずに落ち着いて子どもに話しかけたいと思っていて、子どもが片付けない場面に遭遇した時は落ち着いた感じで「どうかしたかな?」「これから片付けるのかな?」と思うようにしたいと思い描く、といった具合です。

この時に、自分が持ちたい感情が思い浮かばない場合は、ラッセル感情環にある感情を参考にしてみましょう。

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3.思い描いた姿を書き出してみる

このように、特定の感情が湧いた時に自分が取りたい態度を思い浮かべて、その様子を文字にして書き出してみます。

この時に、ABC (Active event; 感情を引き起こす出来事、 Belief; 信念、 Consequence; 結果)を意識して書き出すと効果的です。

・AのActive eventは自分がコントロールしたい感情を引き起こす要因となっている出来事です。

・BのBeliefはその感情を引き起こす出来事を自分がどのように捉えているか(意味づけしているか)にあたります。

・CのConsequenceは感情を引き起こす出来事の捉え方によって出てくる態度や行動となります。

まずは、感情をコントロールしたい場面で普段自分が取っている態度や感情を言語化してみます。

先の子どもの片付けの例を使うと、

A:子どもが片付けをしていなかった

B:片付けるように言ったのにやらなかった

C:片付けるように言ったのにやらなかったからイラッとした

と書くことができます。

このように書き出すと、言いつけを守らなかったからイラッとしてしまった事が目で見て分かります。

子育てでついイライラしてしまう状況への対処についてもっと知りたい方はこちらの記事をご覧ください:

子育てでイライラしてしまった時にできる事〜マインドフルネスの研究からヒントを探る〜
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4.自分が取りたい行動が取れるような「信念」を考えてみる

このようにABCモデルに沿って一連の流れを書き出してみると、Bの信念にあたる意味づけを変えていくことで、その後の感情と対応する行動が変わってくることが分かります。

そこで、次のステップとしてBの部分に着目して自分がどのような行動を取れば望むような感情や態度が取れるかを考えて、その内容に書き換えてみます。

先の例を使ってみると、

A:子どもの片付けをしていなかった

B:片づけなかった理由は子どもなりに持っているだろうと考える

C:子どもの理由に落ちついて耳を傾ける

といった形が考えられます。

5.変更したBの考え方(信念)を思い出すリマインダーづくり

先の例のようにBの信念を一度書き換えるとことで望ましい態度や感情が湧いてくる考え方が分かるものの、一度見える化して意識するだけで定着させるのは難しいです。

そこで、変更した新しい信念を思い出せるリマインダーをつくって、事あるごとに意識できる仕組みを作りましょう。

先の子どもの片付けの例の場合は、「子どもの意見を尊重する」「まずは質問」といった、子どもなりに持っている考えを聞くことを強調するような簡潔な言葉を考えてみます。

その後、目につく所にポストイットで貼ったり、スマートフォンの待ち受けやリマインダー機能などを活用して、頻繁に目にして繰り返しイメージするようにします。

初めのうちは、リマインダーを見ることを忘れてしまったり、新しい考え方が頭から抜けてしまっているような事も多いでしょう。ですが、それは貴重な気づきや学びの機会であり、「出来なかった。。。」と落ち込む必要は全くありません。

大事なのは、そのような機会を通して成長して長期的に取り組んで身につけていく姿勢です。

繰り返し取り組めばリマインダーを見る機会も減りますし、気づけばリマインダーなしでも出来ている機会も訪れます。そのような時には、繰り返し取り組み続けた自分の努力を褒めてあげましょう。

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まとめ

今回は、ネガティブな感情と向き合うための方法について、感情のコントロールの観点から考えていきました。

感情は、感情を引き起こす出来事があり、その出来事に対して意味づけをして、その意味づけの結果として対応する感情が湧き、その感情に対応する態度が表に出てくる、といったメカニズムによって説明することができます。

感情のコントロール方法は感情が湧いてくる前に対応する「再評価」と感情が湧いた後に対応する「抑圧」の2種類がありますが、特に感情のコントロール方法として効果的なのは、「再評価」です。

「再評価」は、感情を引き起こす出来事に対する評価(意味づけ)を変えていくことで、自分が取りたい感情や態度を取れるようにしていく感情のコントロール方法です。

出来事に対する評価方法をコントロールするには、コントロールしたい場面で湧いてくる感情を可視化して、感情を引き起こす出来事と関連する態度をABCモデルに沿って書き出してみます。その後、Bの信念を変えて自分がイメージしている感情が湧いてくるような形にしていきます。

そして、新しい信念を思い出せるリマインダーを用意して繰り返し目にして意識的に新しい考え方をするようにしてみましょう。

最初はなかなか出来ないかもしれませんが、その都度思い出して繰り返していけば、気づいた時には無意識に出来ているようになります。

ぜひ参考にして取り組んでみて下さい。

参考文献

Barrett, L. F., Lewis, M., & Haviland-Jones, J. M. (Eds.). (2016). Handbook of emotions. Guilford Publications.

江川翔一, 瀬島吉裕, & 佐藤洋一郎. (2019). 情動評価のためのラッセルの円環モデルに基づく感情重心推定手法の提案. 日本感性工学会論文誌, TJSKE-D.

Gross, J. J., & John, O. P. (2003). Individual differences in two emotion regulation processes: implications for affect, relationships, and well-being. Journal of personality and social psychology, 85(2), 348.

早川 琢也

2007年東海大学理学部情報数理学科卒、2009年東海大学体育学研究科体育学専攻修了。東海大学大学院では実力発揮と競技力向上の為の応用スポーツ心理学を学ぶ。 2014年8月よりテネシー大学運動学専攻スポーツ心理学・運動学習プログラムに在籍。スポーツ心理学に加え、運動学習、質的研究法、カウンセリング心理学、怪我に対するスポーツ心理学など幅広い分野について学ぶ傍ら、同プログラムに所属する教員・学生達のメンタルトレーニングを選手・指導者へ指導する様子を見学し議論に参加する。 2016年8月より同大学教育心理学・カウンセリング学科の学習環境・教育学習プログラムにて博士課程を開始。スポーツスキルを効率良く上達させる練習方法、選手の自主性を育む練習・指導環境のデザインについて研究。2020年11月に博士号(Ph.D.)を取得。現在は、慶應義塾大学兼任研究員として選手の主体性を育める練習環境をテーマに研究を進める一方、NPO法人Compassionのメンバーとしてスポーツ心理学、運動学習、教育心理学などの学術的な理論や研究内容を応用して、子どもが未来に対して希望を持てる心のサポート活動も積極的に行なっている。