子どもがやるべき事がやれない。その時保護者ができることとは?

育ち盛りの子どもが好きなことに夢中になっている様子は、保護者として見ていて嬉しいものだと思います。

好きなことだけやれていれば苦労はありませんが、現実にはそうもいきません。 学校の宿題に限らず、習い事をやっていれば練習や課題など、「やらなければいけない事」も少なからずあります。また、好きなことをしていても「頑張らないといけない事」などもあります。

子どもが自ら進んで取り組んでくれればいいのだけど、保護者が言わないとなかなかやらない。

このような悩みを多くの方が抱えているかもしれません。

そもそも、保護者が言わないとやれないのはなぜでしょうか? また、やるように言ったにもかかわらずなかなかやらないのはどんな理由があるのでしょうか? その疑問を解決するヒントを今回のブログでご紹介していきます。
今回の内容を活用して、子どもが保護者から言われずに物事に取り組めることが増えるきっかけになればと思います。

もくじ
1:やらされると、やる気がどんどん失われてしまう
2:夢中になれる事とやらされる事の違いとは?
3:やらされるとやる気を失うメカニズム:アンダーマイニング効果と内在化
4:「やらせる」から子どもが「自ら取り組む」へ:保護者ができるサポート
5:取り組みを上手く使えるために必要な考え方
6:まとめ

1. やらされると、やる気がどんどん失われてしまう

保護者であれば、子どもが宿題や習い事の練習など、「やった方がいい」「やらなきゃいけない事」があれば、取り組んで欲しいと思うのは自然なことです。

このような思いから、子どもがやるべき事になかなか手をつけない様子を見かけたら、「宿題しなさい」「練習したの?」と保護者から働きかけてやらせようとしている人は多いと思います。

しかし、何かを「やりなさい」と保護者からやらせようとすればするほど子どもはやる気を失い、やらされている事は言われないと出来なくなってしまう可能性が高まると考えられます。

このような経験はありませんか?

・保護者が大事だと思って通わせている習い事をやらせていたら、子どもがだんだん興味を失って習い事に行きたがらなくなった。

・子どもが習い事に行きたくないと言っているにも関わらず、無理矢理連れて行ったらどんどん行きたがらなくなってしまった。

このようなこの子どもの行動をモチベーションの観点から解釈すると、「やらされた事によって、子どもが興味を失ったりやりたいと思う気持ちが削がれてしまった」と捉える事ができます。

2.夢中になれる事とやらされる事の違いとは?

子どもがやるべき事をやらない理由を考えていく前に、まず夢中になれる事とやらされる事の違いについて注目してみます。

そこで、まずはご自身の体験に置き換えてやらされる事について考えていきたいと思います。 まず、小さい頃、時間を忘れてのめり込んだ事を思い浮かべて見て下さい。ゲーム、絵画、音楽、外遊びなど、人によって様々でしょう。 好きな科目の勉強であれば、きっと誰に言われるでもなく自分から取り組んだのではないでしょうか?恐らく、もっと知りたいという気持ちから分からないことを自分で調べたり、誰かに教えてもらったりしていたこともあるでしょう。

好きなことに取り組むことは、のめり込む過程で結果的に相当な量と質で取り組むことがよくあります。

次に、あまり気が乗らず誰かに言われて渋々はじめられた事を思い浮かべて下さい。 ここでは、「勉強しなさい」と言われてしぶしぶ手を動かし始めた勉強、「練習しなさい」と言われていやいや始めた習い事の練習、「今すぐやりなさい」と言われた苦手な仕事などが挙げられるでしょう。

恐らく、言われて始めたにも関わらず、すぐ止めてしまったり、なかなか進まずに時間ばかり過ぎてしまうことが多いと思います。

このような場面や経験に当てはめても両者の違いは明らかで、取り組むときの量や質に大きな違いがあるのが分かると思います。

3.やらされるとやる気を失うメカニズム:アンダーマイニング効果と内在化

1.  アンダーマイニング効果

アンダーマイニング効果とは、物事を外発的にやらされればやらされるほど、自分から取り組む意欲やモチベーションが弱くなってしまう働きを説明したものです。

このような経験はありませんか?

・最初は楽しくやれていた習い事や勉強が、成績のために頑張らないといけなくなって次第に楽しくなくなった。

・始めた頃は楽しかった習い事が、保護者からやりなさいと言われ続けた結果、徐々に楽しくなくなって習い事に行きたくなくなった。

このように、誰かに言われて行動を起こすことや、楽しさではない別の外的な要因(成績など)によって行動を起こしている状態は「外発的に動機づけられた状態」と言えます。

このような外発的に動機づけられた状態が続くと、外発的な要因がないと行動が起こせなくなってしまう状態が、アンダーマイニング効果です

スポーツの世界ではバーンアウト(燃え尽き症候群)によってスポーツを辞めてしまうケースがありますが、バーンアウトによってスポーツを辞めてしまう要因の一つが外発的な動機でスポーツをしている状態(金メダルを取る、優勝したい、年収を上げたい、など)が挙げられています。

ニュージーランドのスポーツ心理学者のLonsdaleとHodgeが行ったニュージーランドのエリートアスリートを対象にした研究では、外発的に動機づけられているアスリートはやる気がない状態になったりバーンアウトに陥りやすい傾向がみられ、自ら決定して行動しているエリートアスリートではバーンアウトの傾向が低い傾向にあることが分かりました。

この傾向については、教育場面でも同様の報告がされています。ジョージア大学のPisarikが大学生を対象に行った調査でも、自己決定をして自分で行動している生徒はバーンアウトの傾向が低く、大学に行くことに対して外発的に動機づけられている生徒(保護者に学校に行くように言われた、成績、将来の職業のため)、は、バーンアウトや途中でやめてしまう傾向が見られたと報告しています。

このように、動機づけの研究では長期間物事を続ける上では外発的に動機づけるのは効果的でないことは多くの研究でも言われています。

そのため、いかに保護者からやらされず、子どもが自ら取り組めるようなサポートができるかがポイントとなります。

子どものモチベーションを保護者がサポートする具体的な方法については、下記リンク先から詳しく読めます。

モチベーションを上げて維持する方法:子どものモチベーションを保護者がサポートする
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2. 内在化

アンダーマイニング効果と対照的に、自ら取り組む姿勢と深く関係しているのが「内在化」と呼ばれる心理面の働きです。

内在化とは、最初はやらされていた事でも、自己選択や自己決定を繰り返す事が自ら取り組む姿勢を育むことを説明しているメカニズムです

・最初は保護者に連れられて始めた習い事だったが、自分で練習をやっているうちに楽しくなって長続きしている。

・苦手だった科目を、自分の力で苦手だったことが克服できてからは楽しく感じられるようになった。

・自分がやると決めたことは誰かに言われずとも自分の意思で取り組めている。

このような状態は内在化が働いて内発的に動機づけられて取り組めている状態と言えます。そしてこの内在化を促すには、「自己選択」や「自己決定」がキーワードになります

内発的動機付けと外的動機付けに関しては、下記の記事をご一読ください。

やる気を出す方法とは?:心理学の動機づけとモチベーション・自己決定理論をひもとく
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やる気・モチベーションとは? まず心理学として「動機づけ」には2種類あります。「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」です。 内発的動機づけとは?: 内発的動機づ.....
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4.「やらせる」から子どもが「自ら取り組む」へ:保護者ができるサポート

これまでの内容を踏まえて、子どもがやるべき事に自ら取り組めるような支援をして、出来るだけ保護者からやらせる機会を減らしていく方法を考えていきましょう。

1. まず「やれない理由」を聞いてみる

子どもがやるべき事に取り組めていない様子を見かけた時に、いきなり頭ごなしに「やりなさい!」と押し付けてしまうと、子どもは萎縮してしまうだけでなく、前述のアンダーマイニング効果によって、自ら取り組む意欲を失ってしまいます。

ここは、まずワンクッション置いて、落ち着いた様子で「どうしてやらないの?」「何かやれない理由があるの?」といった具合に子どもがやるべきことをやらない(やれない)理由を聞いてみましょう。

子どもができない(やらない)理由を聞くだけでも、保護者から働きかけてやらせる以外の選択肢も見えてきます。

2. やるかやらないかを、子どもが決められるようにする

やらなければいけない事であっても、やるかやらないかの決定を子どもに委ねるのが長い目で見た時には効果的です。

必要な事をやらせる背景には、「子どもに失敗をさせたくない」といった気持ちが働いていることが多いのではないでしょうか。

先回りをして失敗を回避する手伝いをすることで、その時は困らずに済むかもしれません。しかし、それでは上手くいかなかった事を自分で出来るようにする経験を得ることはできません。

やらない事を自分で選んだ場合、どんな事になるのかを身をもって体験することで、自分自身の出来事として残ります。

しかし、「保護者や他者にやらされた」といったように、外発的な要素によって取り組んだと感じてしまうと、物事の決定の責任が自分ではなく他者になってしまいます。

もし、宿題や練習をやらなかった事で子どもにとって不利益なことが起こったとしたら、その時は「なぜ、上手くいかなかったと思う?」と一緒に上手くいかなかった原因を探してあげましょう。

3.  子どもに「これくらいだったら出来る」と思える分量を決めることを促す

やるべき事に対して気持ちが乗らない時は、「やることが多すぎる」「やることが難しすぎる」といったように、課題が難し過ぎて手がつかないケースも考えられます。

そのような場合に、取り組むハードルを下げるために課題の量を期日までに計画的に細かく分けたり、難しい内容をいくつかのステップに分けるといったサポートは保護者がしてあげられることの1つです。

まずは「今日1日でどこまで出来そう?」と子ども目線で頑張れる内容を聞いてあげましょう。大事なのは、子どもが自分で頑張れる量を決めるという点です。このような形で自己決定の機会を作ってあげます。

同じ要領で「じゃあ、明日はどれくらいやる?」といった具合に、段階を踏んで子どもが自分で頑張る量を決めるサポートをしていきます。このような形で、期日までに終わるような計画作りのサポートをしてあげましょう。

5.取り組みを上手く使えるために必要な考え方

最後に、先のご紹介した取り組みを実施する上で、保護者が気に留めておくべき、前提となる考え方をご紹介します。

それは、子どもの失敗を咎めず、後押しをしてあげることを心がけることです。

先にご紹介した方法に新しく取り組んだとしても、短期間で劇的に変化するのは稀です。時間をかけて少しずつ変化していく様子を見届けてあげるようなスタンスを心がけましょう。

その上で上手くいかない時のサポートをする準備をしておくことが重要になります。

上手くいかない時の試行錯誤や工夫によって出来るようになるからこそ、子どもに限らず大人も成長することができます。

上手くいかない時や失敗した時は、気持ちも落ち込み、次にチャレンジする気持ちも萎んでしまいます。

反対に、自分で選択した取り組みが上手くいかない時に「言った通りにしないからだ!」と言ってしまうとますます自分で行動する気持ちが萎えてしまいます。

保護者も辛抱を要するかもしれませんが、子どもも同じように上手くいかない時は辛抱しながら頑張っています。

子どもの自立を促す「見守る」子育て・教育にご関心がある方は、下記の記事をご覧ください。

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6.まとめ

今回は子どもがやるべき事をやれない理由を考えていき、保護者ができる取り組みを紹介してきました。

必要なことに取り組めていない様子を見ると、つい「やりなさい」と言ってしまいがちですが、やらせてしまう事によって自分で取り組む意欲を削いでしまっている可能性があります。

これは、アンダーマイニング効果と呼ばれるもので、他者からやらされるなど外発的な要因で物事に取り組み続けると、自ら取り組む意欲が薄れてしまう状態を指します。

一方で、子どもに自分で決めたり選んだりする機会を用意して子どもが自己決定を繰り返すことで、自ら取り組む意欲を育むことができます。これが、内在化と呼ばれる状態です。

この内在化を狙って、「保護者がやらせる」から「子どもが自ら取り組む」へシフトできる取り組みをするのが効果的です。

保護者ができることとしては、まず子どもにやらない(やれない)理由を聞いてみましょう。その理由が分かれば対処できることもありますし、子どもがやるまたはやらない選択をすることができます。

子どもと話し合った結果、やらない事を選んで失敗することもあるかもしれません。その場合は一緒に失敗した理由を探して、子どもが失敗から学べるサポートをすることが大切です。

もし、やることの量が多くて困っていたり難しくて手が動かせずにいたら、その日子どもが頑張れる量を決める手伝いをして取り組みやすくする工夫もできます。

このように、色んな形で子どもが自己決定をする機会を保護者が作ってあげることで、少しずつ保護者から言われなくても取り組めるようになる支援ができます。

このような取り組みをしていると、子どもが失敗するケースも少なからずあるでしょう。その時に備えて保護者は子どもが失敗した時のサポートをしてあげることで、失敗してもまた次チャレンジする姿勢を持ち続けることができます。

子どもの自己決定を尊重する取り組みは、慣れないうちは子どもも大人も上手くいかないことが多いかもしれません。ですが、上手くいかない経験から学び続ければ、徐々に子どもが自分で取り組めるようにもなり、保護者も子どもにやらせるためにエネルギーを注ぐ機会も減ってきます。

今回の内容が少しでも子どもが自分から取り組む行動を起こすヒントになれば幸いです。

参考文献

Lonsdale, C., & Hodge, K. (2011). Temporal ordering of motivational quality and athlete burnout in elite sport. Medicine & Science in Sports & Exercise, 43(5), 913-921.

Pisarik, C. T. (2009). Motivational orientation and burnout among undergraduate college students. College Student Journal, 43(4), 1238-1253.

Zimmerman, B. J. (2013). From cognitive modeling to self-regulation: A social cognitive career path. Educational psychologist, 48(3), 135-147.

早川 琢也

2007年東海大学理学部情報数理学科卒、2009年東海大学体育学研究科体育学専攻修了。東海大学大学院では実力発揮と競技力向上の為の応用スポーツ心理学を学ぶ。 2014年8月よりテネシー大学運動学専攻スポーツ心理学・運動学習プログラムに在籍。スポーツ心理学に加え、運動学習、質的研究法、カウンセリング心理学、怪我に対するスポーツ心理学など幅広い分野について学ぶ傍ら、同プログラムに所属する教員・学生達のメンタルトレーニングを選手・指導者へ指導する様子を見学し議論に参加する。 2016年8月より同大学教育心理学・カウンセリング学科の学習環境・教育学習プログラムにて博士課程を開始。スポーツスキルを効率良く上達させる練習方法、選手の自主性を育む練習・指導環境のデザインについて研究。2020年11月に博士号(Ph.D.)を取得。現在は、慶應義塾大学兼任研究員として選手の主体性を育める練習環境をテーマに研究を進める一方、NPO法人Compassionのメンバーとしてスポーツ心理学、運動学習、教育心理学などの学術的な理論や研究内容を応用して、子どもが未来に対して希望を持てる心のサポート活動も積極的に行なっている。