生徒を引き込む魅力的なオンライン授業の工夫 〜オンライン授業の特徴を踏まえたエンゲージメントを高める方法〜

新型コロナウィルスによるパンデミックにより、これまでの授業形式から大きくやり方を変える事を余儀なくされました。

一番の変化はオンライン授業の導入でしょう。

コロナ禍になる前はあまり一般的とは言えなかった、オンライン授業やテクノロジーを使った授業に急遽切り替える必要が出てきたことで、戸惑った人も多かったのではないでしょうか。

インターネットにつながりさえすれば、どこからでも授業を受けることが出来る便利さがある一方で、オンライン授業で生徒を授業に引き込むのに苦労している先生は多いかもしれません。

この生徒を授業に引き込む難しさにはどんな理由があるのでしょうか?

今回はオンライン授業への参加(エンゲージメント)を難しくさせている要因の1つに注目していき、オンライン授業のエンゲージメントを高める方法を考えていきます。

もくじ
1:オンライン学習環境を改めて考える:同期学習・非同期学習とは?
2:「生徒と先生のつながり」がエンゲージメント(授業参加)を高めるカギ
3:オンライン授業でエンゲージメントを高めるための工夫
4:まとめ

1. オンライン学習環境を改めて考える:同期学習・非同期学習とは?

本題に入る前に、まずはオンラインでの学習環境の特徴を改めて考えていきましょう。

オンライン学習は、大きく分けて非同期学習(asynchronous learning)と同期学習(synchronous learning)の2つに考えることが出来ます。

非同期学習

非同期学習は、特定の時間に生徒と先生がオンライン上で会わずに、オンライン上にアップロードされた資料やメールなどで配布された資料を使って、生徒の時間や都合に合わせて学習する形式です。資格などの通信講座での学習は非同期型学習にあたります。

この学習スタイルの最大の特徴は、自分の都合で学習を進めていけることです。仕事をしている人や日中の決まった時間を確保出来ず、教室(対面・オンライン)に行けない人にとっては、特定の時間に勉強する制約が無いため、自分の都合に合わせて勉強することが出来ます。

一方で、非同期学習では実際の教室やオンライン上などで生徒や先生と顔を合わせる機会がない(または限られている)ため、同じ授業を取っている生徒同士の交流が持ちにくい特徴があります。

同期学習

同期学習はZoomやGoogle Meetのようなオンライン会議システムを利用して、リアルタイムで生徒と先生がやり取りをしながら学習するオンライン授業が該当します。

この学習スタイルは、近年のオンラインテクノロジーの発達によってオンライン上で複数の人と同時に顔を見ながら話せるようになったことで実現した学習スタイルです。

同期学習型のオンライン授業はリアルタイムで生徒と先生がコミュニケーションを取りやすいため、対面授業に近い環境での授業が可能となります。

また、同期学習のオンライン授業を録画することで、後日非同期学習の教材として見返すことができます。

一方で、同期学習の教室では、オンラインでリアルタイムで話せるもののインターネット環境によりタイムラグが生まれる事もあり、対面のようなスムーズなコミュニケーションが取りにくいことがあります。

また、対面授業と違い学習している時は物理的な空間には自分1人しかいないことが多く、その結果他の生徒や先生との繋がりを感じにくい事も指摘されています。

2010年にマルシア・ディクソン博士が186人の大学生に対して行った研究調査では、オンライン授業のアクティビティ(ディスカッションやグループプロジェクトなど)の中でエンゲージメントが高いものと低いものについて聞いています。

この研究で興味深いのは、「エンゲージメントの高さとアクティビティの種類はあまり関係がない」という結果でした。

例えば、この研究では生徒のエンゲージメントが高そうなディスカッションやグループプロジェクトに対しても、調査に参加した学生の約半数しかエンゲージメントが高いと答えず、残りの約半数はエンゲージメントが低いと答えていました。

では、どのような要素がオンライン授業のエンゲージメントを高めるのでしょうか?

 

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2. 「生徒と先生のつながり」がエンゲージメントを高めるカギ

オンライン授業のエンゲージメントを高めるのは、生徒同士または生徒と先生同士が「繋がっている」「ケアされている」「自分1人じゃない」といった関係性を強く感じているかが重要になります

チンチュー・ロビンソン博士とハレット・ハリンガー博士らも、2008年に発表した研究の中で、オンライン授業(同期学習、非同期学習型の授業の両方)においては、いかに生徒が他の生徒同士と繋がっているかを感じられるかによって、そのオンライン授業へのエンゲージメントが変わると報告しています。

実際にオンライン授業を実施している先生の中には、対面授業の時と比べて何となく生徒との距離感が掴めないと感じている人は多いかもしれません。

また、オンライン授業に参加したことがある人は、クラスメイトとなかなかコミュニケーションが取れなかったり、1人で勉強しているような感覚を持った事があるかもしれません。

一方で、学校の教室で授業をしているときは、何かあれば近くにいるクラスメイトにすぐ尋ねることが出来たり、先生に質問することが出来たりと、誰かと繋がっている感覚や安心感を持ったことがあるでしょう。

このような学習環境の違いが、実はエンゲージメントの度合いに影響しているのです。

3. オンライン授業でエンゲージメントを高めるための工夫

上記で紹介した研究内容を参考にすると、オンライン授業でエンゲージメントを高めるには、いかに先生と生徒、生徒同士が「繋がっている」と感じられるかが重要になってくると言えます。

では、どのような側面に対して働きかけるとエンゲージメントを高められるのでしょうか?

混合型のオンライン学習環境:ブレイクアウトルームや掲示板の活用

テネシー大学のリサ・ヤマガタ博士は同期学習と非同期学習の両方を組み合わせた混合型のオンライン学習(blending online learning)を有効に使った上で、特にクラス時間中に小グループでの話し合いやディスカッションの場を多く作ることが効果的であることを報告しています。

例えば、Zoomにはブレイクアウトルーム機能がついていますが、この機能を使うことで小グループを作って話し合いやディスカッションをすることが出来ます。

その機能を利用して、授業の冒頭の5分を使って2人か3人のブレイクアウトルームで近況の共有やカジュアルなテーマでの話し合いをするだけでも、生徒同士の心の距離を近づけて繋がりを感じられるオンライン学習空間を作ることが可能になります。

そして、この小グループでの話し合いの時間を1回の授業の中で多く作り、授業課題以外にも生徒同士がお互いのことを話し合って心理的な距離が近くなれるような機会を作ることも大切です。

他にも、掲示板機能を持ったオンラインプラットフォームの活用も有効です。

簡単な方法としては、クラス用のプライベート設定がされている個人ブログを使うことが挙げられます。

まず、先生がディスカッションのテーマと内容に関する記事を書いて投稿します。その内容について生徒がコメントで意見を共有することで、非同期学習環境で議論を交わすことが可能になります。

この時に重要なのは、先生が生徒のコメントに積極的に返信して交流を持つことです。オンライン上で先生と生徒が繋がりやすくするには、先生が生徒と積極的に授業課題や授業外にコミュニケーションを取ることが重要性であると、ジェームス・グロッシア博士が行った研究調査で報告されています。

掲示板のコメント以外にも、チャットのコメントをこまめに拾って反応したり、メールでやりとりしたり、それぞれのブレイクアウトルームに顔を出して簡単にでもコミュニケーションを取ったりなど、出来る範囲で生徒と交流を持つ工夫は大切です。

個人ブログ以外にはCanvas LMSというプラットフォームが便利です。このプラットフォームでは、掲示板以外にもテストを作成したり成績の進捗を生徒ごとのページで示す事もできるなど、便利な機能が多数備えられています。 https://www.bownet.co.jp/solutions/e-learning/canvas/

非同期学習環境で注意することは、対面のコミュニケーションとは違い声のトーンやニュアンスが文字だけだと反映されにくく、投稿したコメントが意図してない受け取られ方をしてしまう可能性があることです。

この形式でディスカッションをする場合は、攻撃的な表現を使わない、相手の意見を尊重する、などの言葉づかいに関するルールを明確にしておくことが重要です。

意図していなかった解釈をされてしまったり、思い込みが起こってしまう理論について知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

推論のはしご―思い込みが強化されてしまう無意識の行動―
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もくじ 1. 推論のはしごとは? 2. 学習する組織 ピーター・センゲのメンタルモデルとは? 3. 事実ではなくメンタルモデルを構築することで予測する 4. 無.....

エンゲージメントを評価する:認知的エンゲージメントと感情的エンゲージメント

実際に、生徒がどの程度のエンゲージメントだったかのを先生が評価するには、ブリガムヤング大学のリサ・ハルバーソン博士の博士論文で紹介されている、認知的エンゲージメントと感情的エンゲージメントの側面から評価することが可能です。

認知的エンゲージメントに含まれる要素として、注意、努力、課題にかける時間、認知・メタ認知的なストラテジー、深い没入感、興味、が挙げられます。

感情的エンゲージメントに関係する要素は、ポジティブな感情(楽しさ、幸福感、自信)とネガティブな感情(退屈さ、フラストレーション、不安)と、混乱した状態を挙げています。

例えば、先程ご紹介した冒頭の5分間グループトークの効果を評価するのに、認知的エンゲージメント(集中を高めるのに役に立った、深く授業に没入するのに役に立ったなど)や感情的エンゲージメント(楽しさ、幸福感、自信、退屈さ、フラストレーション、不安)の項目から判断することが出来ます。

もしこの評価から感情的なエンゲージメントをもっと高めた方が良さそうだと分かれば、次の授業のグループトークでは「最近楽しかった事を共有する」、「ここ数回の授業を通して自分ができるようになった事について共有する」などの話題で話してみる、といった具合に改善していく事も可能です。

ハルバーソン博士の論文では認知的エンゲージメントと感情的エンゲージメントを評価するための調査用紙(英語版)が紹介されていますので、そちらを参考にしてみて下さい。

エンゲージメントに関連して、好奇心について4つのタイプや伸ばす方法がリンク先から詳しく読めます。

好奇心とは?好奇心を高める方法と4つのタイプ
好奇心とは?好奇心を高める方法と4つのタイプ
目次 1:好奇心の意味 2:好奇心の効果 3: 好奇心の研究の背景  3-1: バーライン氏の拡散的好奇心と特殊的好奇心  3-2: ローウェンスタイン教授の不.....
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4.まとめ

今回はオンライン授業のエンゲージメントを高めるに考えるべき要素と方法について考えてきました。

オンライン授業では、対面授業のような先生と生徒同士や生徒同士が繋がりを感じるのが難しい学習環境であることが課題として挙げられます。

そこで、お互いが繋がりを感じられるように認知的エンゲージメントと感情的エンゲージメントに着目した取り組みを考えていくことが重要になります。

具体的な取り組みとしては、同期型、非同期型学習環境をミックスさせた混合型オンライン学習環境が挙げられます。

他にも、認知的エンゲージメントと感情的エンゲージメントの要素を満たす取り組みを見つけて応用する方法も効果的です。

便利で使い勝手のいいオンライン授業ですが、その効果を充分に活かすためにもオンライン授業の特徴を今一度確認して、エンゲージメントが高まるようなコミュニケーションを取れる仕組みを作ってみましょう。

参考文献

Dixson, M. D. (2010). Creating Effective Student Engagement in Online Courses: What Do Students Find Engaging?. Journal of the Scholarship of Teaching and Learning, 10(2), 1-13.

Groccia, J. E. (2018). What is student engagement?. New Directions for Teaching and Learning, 2018(154), 11-20.

Robinson, C. C., & Hullinger, H. (2008). New benchmarks in higher education: Student engagement in online learning. Journal of Education for Business, 84(2), 101-109.

Yamagata-Lynch, L. C. (2014). Blending online asynchronous and synchronous learning. International Review of Research in Open and Distributed Learning, 15(2), 189-212.

早川 琢也

2007年東海大学理学部情報数理学科卒、2009年東海大学体育学研究科体育学専攻修了。東海大学大学院では実力発揮と競技力向上の為の応用スポーツ心理学を学ぶ。 2014年8月よりテネシー大学運動学専攻スポーツ心理学・運動学習プログラムに在籍。スポーツ心理学に加え、運動学習、質的研究法、カウンセリング心理学、怪我に対するスポーツ心理学など幅広い分野について学ぶ傍ら、同プログラムに所属する教員・学生達のメンタルトレーニングを選手・指導者へ指導する様子を見学し議論に参加する。 2016年8月より同大学教育心理学・カウンセリング学科の学習環境・教育学習プログラムにて博士課程を開始。スポーツスキルを効率良く上達させる練習方法、選手の自主性を育む練習・指導環境のデザインについて研究。2020年11月に博士号(Ph.D.)を取得。現在は、慶應義塾大学兼任研究員として選手の主体性を育める練習環境をテーマに研究を進める一方、NPO法人Compassionのメンバーとしてスポーツ心理学、運動学習、教育心理学などの学術的な理論や研究内容を応用して、子どもが未来に対して希望を持てる心のサポート活動も積極的に行なっている。